ずっとプロを夢見ていた


 普通に投げる事は出来た。

 たぶん、150キロもいける気がする。

 ただし二十球も投げると、肩関節に竹串を突っ込まれたような激痛に襲われた。

 少し時間を置くと痛みは治まる。

 投げる事も出来る。

 しかしもう体がビビってしまって、まともな投球なんてムリ。


 勤続疲労 ?

 生涯投球数を超えた ?

 要するに“ 肩の消費期限が切れた ”


 治療法はない。

 とにかく休むしかない。

 いつまで休めば復活出来るのか ?

 どのレベルまで復活出来るのか ?

 そもそも復活出来るのか ?


 ・・・終わった

 


 野球を辞めようと思った。

 ヤケになったと言うより、疲れ果てていた。

 



 物心ついた時には、ボールを握っていた。


 小学校で周りの誰もが凄いと褒めてくれ、中学では天才と言われた。

 高校では甲子園まであと一歩だった。

 県ナンバーワンと言われたチームのキャプテンをやり、チームの中核を担った。


 別にプロになれるはずもないし、なりたいなんて考えた事もない、と透かしておきながら、ずっとプロを夢見ていた。


 南洋大に入ってスライダーが切れ出して、少しづつ自信が芽生えて来た。

 西崎や和倉のような結構、凄い奴らが俺のスライダーを“ 凄い ”と言った。


 夢に現実味が帯びてきた。

 キレッキレのスライダーの球速が140キロを超え145キロに達し、147キロまで行った。

 こんな高速スライダーを投げられるヤツなんて、プロでも見た事ない。


 もし150キロのスライダーを大学リーグの公式戦で記録すれば、プロのスカウトも放っておけなくなる。


 夢が欲に変わった。


 だからギリギリのラインで、教えてくれた深町監督の警告アラートが耳に入らなかった。

 肩が壊れる寸前に、深町監督のマッサージを受けるという奇跡的な幸運に恵まれながら、その運を自ら放棄した。



 


 ひと月程、何もせずにふらついた。

 酒や女やギャンブルに溺れるほどの金もない。

 寮にいると練習に引っ張り出そうと、次々と人が現れる。

 大沢や西崎が来たら、抵抗すら出来ない気がする。

 だから、なんのアテもなく彷徨うろついた。


 夜の街を彷徨いて、チンピラに絡まれて逃げた事もあった。

 逃げたのは、野球部を退部していなかったからだ。

 ヒロや大沢に迷惑がかかる。

 咄嗟にそう思ったら逃げていた。


 北校の奴らからはウザいほど、着信が来ていた。


 ヒロ、大沢、島、暮林、桜町。

 島なんて十分おきに来たり、同じ文面が十個並んでいたり、かなりしつこい攻撃だった。


 ・・・ストーカーか


「左が手薄だから、すぐ戻って来い」


 何故か水野から、こんなメッセージが入っていた。


「もう復活出来そうもないわ」


 ヤツの着信をスルーするのは、何となく気まずかったので一応返信した。


「復活出来なければ、誕生しろ。つまらん事言ってないですぐ来い」


 ・・・偉そうに


 ・・・新キャプテンは、ずいぶんと上から目線だな


 ・・・復活出来なきゃ・・・誕生か



 ・・・・・・



 ・・・野手で這い上がるか



 結局、野球しか取り柄がねーし。

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