大炎上

 監禁されていた新川奈実さんが発見された9月14日は、奇しくも、静岡県警察本部が特別監察を受けていた日だった。

 

 この特別監察というものは、そもそも不祥事の連鎖から端を発した警察刷新会議で決められた『警察改革要綱』に盛り込まれたもの。

 警察庁が音頭をとり、各府県警本部に対し〝襟を正して・・・・・しっかりやっていますか〟という業務チェックを行うもの。

 

 静岡県警本部で行われたこの日、9月14日の特別監査は関東管区警察局長以下15人によって、正午から午後4時にかけて行われた。

 4時に終了後、13人は即日東京に帰り、局長(警視監)とその秘書室長の2名が静岡に残った。

 残った局長ら2人は、監察の対象だった・・・・・・・・静岡県警本部長(警視監)と合流。伊豆の小京都と言われる修善寺の〝日本一の庭園〟で名高い温泉宿へ向かった。(出発は4時、当然、勤務時間内となる)

 

 この日9月14日は〝 中秋の名月 〟

 静岡の後輩警視監(被監察者)が、東京の先輩警視監(監察者)を接待、しかも警察改革そのものである業務チェックの日程を、わざわざ中秋に合わせる公私混同ぶり。

 

 まさに、その伊豆に向かう公用車に『9年前に阪巻市で行方不明になっていた少女が発見された』旨、第一報が入った。午後4時50分の事だった。


 警察本部長は、県内のあらゆる治安責任を負うもの。

 

『9年2ヶ月監禁されていた女性の発見』

 

 その一報を聞きながらも本部長はこの出張・・を取りやめず、そのまま局長と宿泊先へ向かった。


 そして午後6時頃から、静岡県警の警務部長、生活安全部長、総務課長らと会食(日本一の庭園に浮かぶ中秋の名月を堪能したと言われている)し、さらに午後8時30分から翌午前1時までは、管区局長、本部長、総務課長、生活安全企画課長の4人で賭け麻雀をしていた。

 その間、本部の刑事部長からは逐次、監禁事件の捜査状況の報告を受けていた。

 

 しかし、本部長御一行はそのまま宿泊し、翌15日には修善寺の観光スポットである桂川沿いの『竹林の小径』を散策。温泉街の料亭で昼食をとり、静岡駅で管区警察局長を見送ってから、本部長はそのまま警察本部長公舎に直帰している。


 〝 重大事案を知りつつ、月見酒による官官接待 〟


 週刊『真相』のスクープにより、国民の感情は大炎上。

 警察は、奈落の底に突き落とされたのである。

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