　小学生の時に誘拐され、９年２ヶ月の歳月を異常者によって奪われてしまった悲劇。

　もちろん奪われたのはその長い月日の〝自由〟だけではない。

　幸せな家族生活も、仲の良い友達も、衛生的な環境も、中学生活も、高校生活も、大学生活も、社会に適応していく能力も、健康的な食生活も・・・考え尽くしても、言い尽くせないほどのものを奪われた。

　異常者による女子小学生の監禁・・・それは人間としての尊厳そのものを蹂躙する、とんでもなく卑劣かつ残酷な犯罪である。

　結果として９年２ヶ月もの間、そのように卑劣かつ残酷な犯罪から奈実さんを救い出すことが出来なかった。

　これは警察として恥であり、これこそ万死に値する罪だと思う。

　俺は下っ端の端くれ程度の存在でありながらも、警察官としてこの事件を知ったときには、本気で恥じた。

　そして原因解明と責任追及を死ぬ気で行うべきだと考えた。

　格好つけでも何でもなく、常識的な警察官なら誰もがそう思うはず、そう信じていた。でなければ治安の安定など語れないし、何よりも被害者女性とその家族に申し開きが出来ない。

　しかし、静岡県警はこの事件の見栄えを整える為に、嘘、偽造、隠蔽のオンパレードを行っていた。

　そして、その最も醜悪な姿を、週刊『真相』にすっぱ抜かれたのだ。

～　静岡県警本部長、関東管区警察局長を月見酒でおもてなし　～

～　事件知りながらも官官接待旅行を断行　～

～　本部長、旅行先から虚偽の警察発表を指示　～

　マスコミによって、日本警察が止めを刺された瞬間だった。

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