初動ミス
週刊誌というのは、こんな時、読者の怒りを煽るのが実にうまい。
~ 日本一の庭園に浮かぶ中秋の名月 ~
『その雅趣を賞翫しつ一献を傾ける城主の胸懐に、城下町の悲劇の事など一片ほどもなかったのか?』
この事件に関わる全てを〝月見酒事件〟と呼ばせるようになったのは、スクープ記事にこんな情緒的なフレーズが載っていたからだ。
しかもスクープは一度だけではなかった。
実に周到な構成で、第二弾三弾と用意されていた。
第二弾は多花丘事件の初動ミスの隠蔽だった。
被害者発見時の警察発表は
『多花丘市内の病院で男が暴れているとの通報があったので、警察官が病院に臨場したところ、男と一緒にいた女性が監禁事件の被害者であったので、保護した』であった。
これは事実と大きく異なる。
中村康市の母親は、家で暴れたり、スタンガンで脅したりする息子の事を五年前から三度にわたり多花丘警察署に相談していた。そしてその都度『それは保健所の仕事』だと追い返されている。
また保健所職員は、9月14日、康市を保護に行く際、『何かあったら連絡しますので、よろしくお願いします』と警察に念押しした上で、中村宅に向かっている。
警察は、その要請に対して『そんな事まで押し付けないでくれ』と拒否している。
そして被害者発見時の状況もデタラメである。
中村康市が暴れていたのも、被害者発見も康市の自宅である。
全ては、世を震撼させるほどの大事件に慄いた警察が、慌てて体裁作りをした事による虚偽だった。
そしてこのデタラメな警察発表も、月見酒に興じながら電話で本部長が指示したものであった。
しかし、スクープの第三弾はさらに衝撃的な内容だった。
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