焦りと力み

 一回戦をシードされた南洋北は、二回戦で猛打を振るった。

 

 五回までに1番倉木と3番暮林が2本づつ、4番の俺と5番瀬波が1本づつのホームランを放ち、21安打の猛攻、17得点を奪った。

 そして先発した俺は五イニングをパーフェクトピッチング。ひとりのランナーも許さなかった。

 17対0の五回コールド勝ちという、上々のスタートを切ったのだ。


 みんなそれぞれに、複雑な思いを抱えたまま始まった地区予選。

 学校、いや社会に対する不信感。

 理不尽な仕打ち。不正を正当化して平然と振る舞う大人たち。

 そんな誤魔化しに、最も正義感を発揮し、猛反発する年頃だったのかも知れない。


 初戦の圧勝は、そんなモヤモヤや大沢を失った不安をちょっとした安堵感に変えた。


 大沢の為にも、ヒロの妹の為にも、そしてクソ野郎を見返す為にも、俺達は負けられなかった。


 三回戦も初戦と似たような相手だった。

 ピッチャーも似ていた。

 右の軟投派。正確なコントロールとチェンジアップ、そして、わずかに曲がるスライダー。


 初回、俺達に守備のミスが続いた。そしてそれに不運も重なった。

 最初にそれを招いたのが、俺の悪送球。そして守備の名手、セカンド佐治のトンネル。さらにサード、ショート、レフトの真ん中に落ちたポテンヒット。


 いきなり2失点。

 そしてその裏、俺達の三者凡退。

 

 これで焦る必要なんて、まったくない。


 ・・・しかし


 “ すぐに逆転してやる ”

 

 その思いが大振りとなって表れた。

 みんな序盤から焦りまくった。

 そしてリキみまくった。


 初戦の猛打、そして初戦と似たようなピッチャー。これが裏目に出た。

 

 実際は初戦のピッチャーより、リリースポイントがかなり遅かった。しかも手が遅れて出てくる。

 ボールがヒッティングポイントに、一拍遅れて到達する。

 リキめばリキむほど、相手の術中に嵌まった。


 五回からマウンドに立ったヒロが、六回に一発を浴びた。


 0ー3。


 “ ヒロが打たれた ”


 ヒロだって打たれる事はある。

 しかし、これで焦りとリキみがさらに加速した。


 「力を抜け」「リラックス」「引き付けて逆方向を意識」


 試合が終わるまで、何十回と繰り返された須藤監督の言葉は、最後まで実行されなかった。

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