257球 ……7四死球

 あの冬

 

 俺は徹底的に体をいじめた。

 自らに課した過酷なトレーニングをやり抜いた。


 トレーニングは、主に3つ。

 それは単純で原始的なものだった。

 


 学校から北に三キロの所に、城見山という標高250メートルほどの小高い山がある。

 俺はその山を毎朝、獣のように駆けた。

 山頂までのタイムを計測し、常に記録更新を狙って全力で走る。

 走る距離自体は千メートルもないが、最初は三十分近くかかっていた。それを最後は十五分ほどで駆け上がった。

 

 

 野球部の練習後は投げこみをやった。

 防護ネットに4分割のストライクゾーンを書き込み、九割の力で四隅を狙う。

 愛工大名電のバッターをイメージしながら、九回を投げ切る。

 九人の特徴は頭に刻み込まれていた。

 スライダーとスプリットを交えて強力打線に挑んだ。

 

 コースがあまくなればすべてヒット。

 真ん中に入れば長打になる。

 どうしてもスプリットがあまく入ってしまった。

 最初は五回も持たなかった。

 ピンチになるとフォアボールを連発して、ランナーをためて長打を食らった。

 どうしても投球数が増えてしまう。


 俺はとにかく集中する事だけを考えて、コースを突いた。

 あっという間に辺りが暗くなってしまう。

 そんな日々を延々と繰り返した。


 五十試合を超えた頃、なんとか完投できるようになった。

 被安打を一桁に抑え、三失点、130球ほどで収まるようになった。


 

 そして夜。

 1000本の素振り。

 

 バットを1000回振る事に意味があるのか、それとも無意味なのか。

 そんな事はどうでもよかった。

 ただ毎日1000回バットを振ると決めた。

 それだけのことだ。


 

 春休みに入り、練習が本格的に始まった。

 

 衝撃的だった。

 チームメイトがそれぞれに変貌を遂げていた。

 みんな個々に相当過酷な自主トレを積んできた。

 そんな精悍な顔つきに変わっていた。


 大沢とヒロがいれば、甲子園に行ける。

 夢が実現する。

 でも、いつまでもふたりに〝 おんぶにだっこ 〟ではダメだ。


 257球。 7四死球。


 あんな思いはもうゴメンだ。


 プライドがボロボロになったのは、俺だけじゃなかった。



 そして、春の選抜甲子園大会が、俺たちをさらに燃え上がらせた。

 

 あいつらが全国を制した。


 俺たちに勝って悔し涙を流していた奴らが、歓喜の涙を流していた。



 ・・・俺たちだって

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