リベンジ

 ・・・20年前


 あっけなく終わった最後の夏。

 

 あれは心底悔しかった。

 リベンジのチャンスさえ与えられなかった。

 あんなクソ野郎のせいで・・・


 十七歳の俺の中に、どうしようもなく刻み込まれた大人に対する不信。

 社会に対する疑心。

 そんなものが悲しいほどに植えつけられてしまった。

 


 すべてはあの試合からだった。


 

 ・・・自分自身へのリベンジ


 



 勝てば甲子園。

 あの試合は、俺のプライドをズタズタにした。

 自分の本性をはっきり見せつけられた。


 俺が俺がと、ひとりでいきり立って、実は自分を誤魔化していた。

 試合が終わり、時間が経つにつれ、ボンヤリしたそれが輪郭をなし始め、はっきりと実体化してきた。

 

 〝 俺はビビっていた 〟

 

 あの対戦相手のレベルに圧倒されていた。

 

 ・・・あんなピッチャー、とても打てない。

 

 ・・・あんな打線、とても抑えられない。

 

 その思いは、試合が進むにつれどんどん強くなっていた。


 大沢が歩かされれば、歩かされるほど、どんどん自信をなくしていた。

 〝俺が決める〟と何度も言い聞かして、自分自身を必死に奮い立たせようとしていたが、まったく打てる気がしなかった。


〝 出番が来る 〟とリリーフの準備を始めたのも誤魔化しだ。

 ヒロがあんなに頑張って無失点で抑えたのに、俺がマウンドに立ったらすぐにボコボコにされる。あんな強力打線、俺にはとても抑えられない。

 俺が一瞬で台無しにしてしまう。


 だから八回に肩を痛めて交代したときは、本当にホッとしていた。


 試合が終わり、病院に連れて行かれ、肩の靭帯損傷と言われ、家に帰り、家族に健闘を讃えられ、学校では怪我が勲章かのようにヒーロー扱いされた。


 そうして時間が経てば経つほど、自分が許せなくなってきたのだ。



 

 それからひと月が過ぎ、ふた月が過ぎて肩の怪我も完治した頃、俺は改めて自分に誓った。

 

 例え大沢やヒロに敵わなくても、ふたりと同じように自分が輝けるような野球をする。


 もう決して逃げない。そして最後まで絶対に諦めない。



 ・・・きっちりと自分自身にリベンジしてやる。



 青春真っ只中の俺は、必死に思い詰め、自分に誓いを立てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る