ストーカー野郎

 ルーキーの桃井光と握手しながら、嬉しそうにニヤけている千葉監督の写真。


 その写真が紙面を大きく割いている。


 写真の上には、わざとらしい大見出しが踊っていた。

 

『勝利の千葉マジック全開!』


 

 ・・・何がマジックだ。


 特に地元の記事は節操がなさ過ぎる。

 最下位を独走していた夏前までとは、えらい違いだ。

 交流戦で八連敗した時なんて、こぞって監督交代論をブチ上げていたくせに。

 まったく掌返しにも程がある。



 確かに八月はここまで10勝5敗。

 昨日の勝利で遂に借金が1になった。

 Aクラス入りも目前だ。


 千葉監督はルーキーをよく使う。

 しかしそれは、昨年も一昨年も同じだった。

 ただの新人好き。

 千葉マジックでも何でもない。

 

 新人を抜擢するとニュースになる。

 千葉は単にマスコミ受けを狙っているだけだ。

 結果が出なければ使い捨て、結果が良ければ酷使する。

 育成の意識なんてサラサラないだろう。

 

 それが今季に限って、新人が期待に応え続けている。

 なにしろ昨年、ドラフト指名した六人が全員開幕一軍を果たし、そのままシーズンを通して活躍しているのだ。


 特にドラ1のスーパールーキー、京川聖。

 このサウスポー捕手の活躍は、南洋ホワイトベアーズファンの心を完全に掴んだ。


 プレーに華があり、いつも爽やかで一生懸命の姿勢は、見ている者に感動をもたらす。

 ひねくれ者のこの俺でさえ、見ていて心がザワつく。

 野球を謙虚に楽しむ姿は、いやでもあの頃のヒロや大沢を思い出させる。

 


 そんな京川が、他の五人の新人にもいい刺激を与えているであろう。

 投手三人、捕手、内野手、外野手ひとりずつ。

 ポジションも持ち味もまったく違う六人が、それぞれにいい仕事をしている。


 としも仲間に恵まれてホントによかった。

 子供の頃、視線恐怖症に苦しみ、社会生活なんてとても無理だと思っていた。


 そんな甥っ子がプロ野球の選手として、一年目から活躍出来ているのも、京川や仲間たちのおかげであろう。


 それを千葉監督が、まるで“先見の明”があるかの如く賞賛されているのが、妙に腹立たしい。

 

 


 ・・・朝から嫌な顔を見ちまった。


 

 この顔を見ると、今だに胸くそが悪くなる。


 どうしても、あのストーカー野郎を思い出す。


 

 高三の夏、大沢を退部に追い込んだ男。


 千葉洋平を。


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