俺が ……

 俺は打ちのめされていた。


 バッティングの調子は良かったのだ。

 ストレートを狙っていて、そのストレートが二球続けてきた。

 それなのに、手が出せなかった。


 体が反応しなかった。

 空振りとか、打ち損なった方がまだマシだ。


 俺が何とかしなければ・・・。

 それなのに・・・。



 結局、この回もノーアウトで出塁した大沢を生かせなかった。


 七回。

 ヒロはツーアウトから連打を許したものの、なんとか無得点で切り抜けた。

 球数も100球を超えているが、疲れた素振りは見せない。



 その裏、肩慣らしを始めようと、控えの選手に声をかけた。

 このままだと延長も有り得る。

 俺の出番が来る。


「おれが受ける」


 大沢が立ち上がった。


「おう」



 ダグアウトの前で大沢のミットに軽く投げ込んだ。


 ・・・重い。


 前の日に完投している。球数は137球だった。

 しかし、100球以上投げて三連投四連投なんて、中学時代からいくらでもやって来ている。


 ・・・気のせいか?


 俺は徐々に力を入れて投げた。

 ボールが走らない。


「やめよう」


 七、八球受けたところで突然大沢が言った。


 ・・・なぜ?

 

「・・・そ、そうだな」


 俺は何故だか、この時大沢に“なぜ?”と訊けなかった。

 

 〝後ろめたさ〟


 そう分かったのは、試合が終わってからだ。


 


 名電はこの回からピッチャーが変わっていた。

 “三人のエース”の二人目、濱本。

 MAX150キロと言われる左の速球派で、スライダーとスプリットを持っている。


 この回、その濱本に南洋北の下位打線は簡単に抑えられてしまった。


 ヒロは相変わらず楽しそうに投げていた。

 ピンチになってもそれは変わらない。


 八回もワンアウトから、ヒットを打たれた。

 これで、相手のヒットも二桁だ。


 敵は送りバントを成功させ、ツーアウト二塁となった。


 しかしヒロは、次のバッターを緩いカーブで簡単に打ち取った。

 これが三遊間の緩いゴロになった。


 ・・・この試合、俺がなんとかしなくては。



 サードの桜町が前に出た。


「サード!」と叫ぶ大沢の声が聞こえた。


 ・・・俺の方が肩が強い。


 俺は桜町を押しのけるように、前に出た。


 捕球して、一塁に投げる瞬間、桜町と交錯した。


 俺はバランスを崩しながら、倒れ込むような体勢で送球した。


 そして右肩を強打した。

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