ストレートをぶっ叩く

 ヒロは名電打線を淡々と抑え続けた。

 

 ヒットも打たれはするが、連打は許さない。

 しかも、相手にわざと送りバントをさせて、二塁でアウトを取るような頭脳的なプレーも光った。

 また、それが出来るだけのフィールディングセンスもあったのだ。


 ショートへのゴロも多かった。

 

〝 打てない分、せめて守備では助けてやりたい 〟


 俺はショートの守備位置から、ヒロの背中を見つめながら必死に集中力を高めていた。


 


 試合は0-0のまま六回裏へ。


 またしても、大沢からの打順。


 ・・・この試合、どうやら俺が決着をつけるしかなさそうだ。



 149キロのストレートが、大沢の左膝に直撃した。

 ボールを避けそこねて、尻もちをついた大沢はすぐに立ち上がり、一塁に向かった。

 球場は騒然となった。

 異様な空気が流れていた。

 

 ピッチャーの新城は、一塁まで走り寄ってキャップを取ると、指先を伸ばした“気をつけ”の姿勢で大沢に頭を下げた。大沢は手を振って笑っている。

 新城の振る舞いも立派だと思った。


 しかしスタンドからはブーイングが聞こえた。

 大沢はニコニコしながら新城の肩を叩いて、何度も屈伸をして見せていたが、ブーイングに気付くとスタンドを睨みつけた。

 怒りを表面に出した大沢を見たのは、後にも先にもこの時だけだ。


 ブーイングに対する大沢の怒りは、自分と勝負させてもらえない新城に同情していたからに違いない。

 大沢に盗塁されまくっていたから、足を狙った。

 そんな穿った空気が、球場全体に漂っている事に腹を立てたのであろう。

 

 この試合、新城が一人で悪者になっていた。

 新城も悔しくて堪らないであろう。

 初回、大沢に対して明らかなストライクを投げてレフト線にファールを打たれた時、監督に注意されていたようだった。

 

 大沢との勝負は避けろ。

 監督にそう言われたら従うしかない。

 

 プロ注目の逸材と言われているほどのピッチャーだ。

 本当は力いっぱい勝負したいであろう。

 〝 ギリギリコースを外す投球 〟なんてストレスが溜まるだけだ。


 ・・・俺なら監督に逆らって、勝負する。


 確かに気の毒な話だ。




 ノーアウト一塁。

 三度目の打席。


 俺はストレートに的を絞った。


 大沢はチェンジアップの時を狙って盗塁していた。配球を読んでいるのだ。

 これもキャッチャーならではの読みだろう。


 遅い球は当然、キャッチャーに届くまで時間がかかる。その上、落ちる球はキャッチャーが受けて送球するまでに、やはり時間がかかるのだ。


 もう新城は、俺にチェンジアップは投げられない。


 ・・・ストレートをぶっ叩く。そして試合を決める。


 初球。


 内角高めギリギリ。


 ・・・速い。


 ストライク。


 ・・・手が出せなかった。




 二球目。


 外角高め。


 ・・・きわどいコース。


 ストライク。


 ・・・。



 三球目。


 大沢がスタートを切った。


「え!」


 チェンジアップ。


 ・・・バットが出なかった。


 三球三振。



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