俺さえ ……

「アウト!」


 ・・・間に合った。


 俺はすぐに立ち上がった。


 ヒロと大沢が駆け寄って来た。


「大丈夫だ。・・・思わず出しゃばっちまった」


 傍らで呆然と佇む桜町に〝スマン〟と声を掛けた。


 大沢は一瞬、俺の右肩に目をやった。


「シモは今日、全部リキみ過ぎかも」


 ヒロが心配顔を向けてきた。


「・・・そうか」


 俺は中途半端な半笑いをつくった。


「あっちは勝って当然。こっちは負けて当然の試合」


 大沢が真顔で言った。


「そうだな」


 俺は半笑いのまま頷いた。


 ・・・勝てば甲子園。


 確かにあっちは勝って当然かも知れない。


 しかし、この二人がいる限りこっちにもチャンスはある。


 ・・・俺が・・・俺さえ。


 八回裏もツーアウトから大沢が歩いた。


 


 そして四度目の打席。


 一塁に投げる時、肩を回せないサウスポーは速い牽制球が投げられない。


 しかし、濱本の牽制球は速かった。


 手首が相当強いのであろう。


 その上、クイックモーションもうまかった。


 濱本は手首と目で大沢の足を封じた。


 ・・・俺が決めてやる。


 初球。


 アウトコースに逃げるスライダー。


 ストライク。


 二球目。


 アウトコースの速い球。


 テイクバックを小さくして、コンパクトにボールを叩く。


 しかしバットは空を切っていた。


 ・・・スプリットか !


 ドクッ ドクッ ドクッ


 今の空振りで、肩に拍動を感じ始めた。


 ・・・関係ねぇ。


 三球目。


 真ん中高め。


 俺の渾身のフルスイングを、あざ笑うかのようにボールが浮き上がった。


 ・・・単なる釣り球。


 ・・・また三振。


 ・・・?


 ・・・肩がうごかない。


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