大沢は歩かされる ……

 なにしろ甲子園のかかった一戦。

 南洋の怪物を調子付かせたら、手に負えない。

 試合を一気に持っていかれる。

 

 カウントが不利になったら歩かせた方がいい。

 最初からそういう作戦だったのであろう。


 しかし敬遠をするわけではなかった。

 あくまで力の限り際どいコースを突く。

 それはそれでハイレベルな制球力がないと出来ない芸当だ。

 

 ボール球に手を出してくれれば、まず長打はない。

 もし主審がストライクを取ってくれればラッキー。

 そんな投球だった。


 


 一回裏、ツーアウト。

 大沢は一度しかバットを振らなかった。

 3ボール1ストライクからフォアボール。

 

 ツーアウトランナー一塁で、俺の打席。


 そんな試合になる。

 予感はしていた。

 

 大沢は歩かされる。

 俺なら抑えやすい。


 だが、俺の調子も悪くはない。

 〝一泡食わせてやる〟

 俺は気合を入れ直した。


 初球。

 いきなり大沢が走った。

 投球は内角高めのボール球。


 キャッチャーの送球は完璧だった。

 大沢が頭から滑り込んだ。


「セーフ!」


 キャッチャーが悔しそうに天を仰いだ。


 大沢の足を見くびるな。

 デカいんで、トロそうに見えるが、50Mを5秒台で走る。

 

 ツーアウト二塁。


 2球目。

 アウトローに入ってきたストレートに合わせた。


 ・・・捉えた!


 完璧にミート。


 打球はライナーで、センターよりの左中間に飛んでいった。


 ・・・よし!先制点だ。


 一塁ベースを蹴る瞬間、センターのダイビングが見えた。


「アウト!」


 ・・・くそったれ!

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