勝てば甲子園
勝てば選抜甲子園確定の準決勝。
相手は愛知一位の愛工大名電。
驚異の破壊力を誇る打線と、三人のエースがいると言われる隙のない投手陣が売り物。
事実、このチームには後にプロ入りする選手が五人もいたのだ。
そんなチームを相手に、ヒロは公園で草野球をする少年のように、めちゃくちゃ楽しそうに投げていた。
この大一番。
ヒロが先発する事は、俺や監督を含めチーム全員の総意だった。
この時には、誰もが認めるエースになっていたのだ。
そんなプレッシャーのかかるマウンドで、ヒロはまるで遠足気分のように楽しげだった。
~ 140キロでも丁寧にコントロールすれば、打たれない ~
この大沢の言葉は訂正が必要だった。
ヒロのボールは140どころか、130キロに届かない。
それでも強打の名電打線を手玉にとっていた。
とにかく、丁寧にコーナーを突く。
フォーシーム、ツーシーム、カーブ。
微妙に握りを変え、インロー、アウトハイ、アウトロー、インハイをしつこく突く。
丁寧に丁寧に根気よく、四隅のフロントドア、バックドアを繰り返す。
ヒロの凄いところは、コントロールだけではなかった。
打者の心理を読む。ウラをかく。打ち気を逸らす。意表を突く。
大沢と一緒に打者との駆け引きを楽しんでいるかのようだった。
この試合。
スコアがまったく動かなかった。
こっちも相手投手に手玉に取られていたのだ。
三人のエース。
その言葉の通り、三人とも俺より速い球を投げ、いくつもの球種を持っていた。
大沢は前の試合で打ち過ぎた。
三人のエースは大沢とまともに勝負する気がなかったのだ。
そして俺は・・・敵になめられていた。
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