リンチ

 冬


 俺は集団リンチに遭った。


 相手が誰だったのか、何人だったのかも分からなかった。

 恐らく先輩達。

 二年か? それとも引退した三年か? 両方か?


 俺は寮に入っていた。

 自転車通学だった。


 部活が終わり、寮に帰って来た直後、暗闇の自転車置き場で襲われた。


 自転車からおりた瞬間、頭に袋が被せられた。

 そのまま転がされ、ボコボコに殴られた。

 誰も声を発する事もなく、ただ数人の息遣いだけが聞こえた。

 俺はただじっと体を丸めて、息遣いを聞いていた。



 背中や腰、臀部にひどい打撲や裂傷を負ったが、顔、腕、足などはほぼ無傷だった。


 俺に恨みはあるが、問題になっては困る。

 そんな妙に分別臭い殴り方だった。


 犯人の心当たりは腐るほどあった。

 俺を嫌っていない先輩なんて、一人としていなかったであろう。


 今思えば、グランドでの俺は、先輩を呼び捨てにし、味方のミスを罵倒し、エラーをしたチームメイトを軽蔑するような態度を取っていたように思う。

 俺なりに必死だったのだが・・・


 ただ、お山の大将気分、天狗になっていたのも確かだ。


 襲われた事は、誰にも言わなかった。

 野球部の不祥事発覚を恐れたとか、そんな事を気にしていたわけではない。


 カッコ悪いからだ。

 ボコされたなんてみっともなくて、人に言えなかった。

 ただ、それだけだ。


 殴られた事も大して気にしていなかった。

 シーズンオフに入っていたので、練習はウエートトレーニング、走り込みが主だった。 だからなんだかんだ理由をつけて、適当にサボった。

 投げ込みも肩の休ませる為、と言ってやらなかった。

 

 殴られたケガはそうやって病院にも行かず、市販の湿布だけで治した。


 また襲ってきたら、今度こそやり返してやる。

 次はいつ来る?

 おれは気を張って過ごしていた。


 そのうち体がおかしくなっていた。

 力が入らない。

 やる気が起きない。


 体が先に弱音を吐いた。

 実は強がっていただけだった。

 心は折れていたのだ。


 またいつやられてもおかしくない。

 誰がやったかも分かっていない。

 暗闇で突然、頭に袋を被せられてボコボコに殴られる。


 ・・・いつ来る。

 

 ・・・どこで来る。


 俺は怖くて怖くて堪らなかったのだ。 

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