顔文字

 空のカップを持って部屋に戻ると、また携帯の着信シグナルが点滅しだした。


 ・・・何か言い忘れたか?


 


 祥華 { あまり遅くならないようにね ^_^


 ・・・なんだ、祥華か。


 


 三人のグループラインだから、祥華が登場しても不思議はないが・・・


 貴 { 夜、ドームでとしの応援だから、多少は遅くなる。試合が終わったら、寄り道せずにすぐに送り届けるから心配無用。


 祥華 { よろしくお願いします (^^)


 ・・・まったく。


 ~ あまり遅くならないようにね ^_^ ~


 ~ よろしくお願いします (^^) ~


 顔文字ってヤツは、厄介で恐ろしい代物だ。


 祥華は、昔から表裏のないカラッとした性格たちで、思った事は考えるより先に口に出るような女だった。それは今も変わらないであろう。


 ただし、俺以外の人間に対しては、だ。


「あなたは優深に愛おしさを感じていますか?」


 三年前、祥華は口元に微笑みを作ってそう言うと、このマンションを出て行った。


 


 〝 どうしたんだ。珍しい物言いだな? 〟


 


 俺は笑顔を真に受けて、首を傾けただけだった。


 それっきり二人が帰って来ないなんて、夢にも考えていなかった。


 祥華とは南洋大の同級生だった。


 三年の時、ゼミで同じクラスになり、俺の方から誘いつき合い始めた。


 卒業後もつき合いは続き、俺は警官となり、祥華は地元では中堅規模の精密機器メーカーに就職した。


 二十四歳の時、俺は巡査部長に昇格し、本庁の捜査一課に配属された。


 祥華とはそれを機に結婚した。


 二年後に優深が生まれた。


 〝 人を深く思いやれる人になって欲しい 〟


 優深の名には、二人でそんな思いを込めた

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