最悪の結末

 俺は気絶している母さんの銀のネックレスに注目した。


 念を込めるように集中し、銀のネックレスを支配して手元に呼んだ。


 この銀大ネックレスを、地の能力で細い糸に加工して、グロー3の腕に向けて投げた。実咲の髪を掴んでいる腕に。


「実咲を、離せ!」


 銀の糸は男の腕に上手く巻きつくのを見て、俺は糸を引っ張った。ただし、捕まえたわけじゃない。金属で出来た細く鋭い糸は、グロー3の皮膚に、筋肉に食い込み、血を吹き出させた。


「あああああああッ!」


 グロー3が実咲の髪を離し、糸に炎を当てて焼き尽くした。


「麻人……なんなのそれ? 何が起こってるの?」


 恐怖からか、頭が回っていない様子の、状況が把握できていない実咲。


「実咲。話は後だ」


 俺は歩み寄ってきた、フレイムエースブレイクと呼ばれる黒い服装の男と並んだ。


「年貢の納め時だな」


 フレイムエースブレイクは、足元に転がった、覚醒石と呼ばれる、能力者を作る石を回収し、グロー3に告げた。


「ふ、ふふふふ……」


 グロー3が後ろに飛んで距離を取った。


 このフレイムエースブレイクという男と同じ炎使い。だがその超能力の実力差は歴算だった。そして新しく目覚めた俺もいる。


 だがグロー3は、笑っていた。


「ぐははは、げひゃひゃひゃひゃは!」


 なんだこいつ、頭がおかしいのか? 狂気すら感じる。


「あー、これは仕方がないなあ……」


 顔を抑えて笑い続けるグロー3。


「こりゃ万に一つも勝てねぇな。どう足掻いてもソーサリーメテオの最強の炎使いには勝てねえ。じゃあ、こうするしかねぇよなぁ!」


 グロー3が胸元に手を構えて、炎を発生させる。


「なっ!」


 炎がどんどん膨れ上がり、縮み、膨れては縮みを繰り返す。

 まさか、炎を一点に凝縮している!


「このままだと万に一つも勝ち目もなく死ぬだろうな……だけどよぉ、ここで航空機ごと爆発させたら、どうなると思う?」


「やめろ!」


 フレイムエースブレイクが苦虫をかむように「チッ」と舌打ちした。


「もう遅いぜぇ! このままじゃ確実に殺されるが、皆で仲良くパラシュート無しのスカイダイビングだ! もしかしたら万に一つも生き残れるかもしれないなぁ! そうだよなぁ!」


 やばい。追いつめられて自棄になったのか!

 乗客たちが今にもパニックを起こさんばかりに騒ぎ始める。


「ぐふふ、ふははははは、ふはははははははは!」


 そしてグロー3が、凝縮された炎の塊を解き放った。


「エクス、プロージョン!」


 瞬時に広がる爆炎。鼓膜を突き破らんばかりの爆発音。


 とっさに伏せたが、激しい熱風に煽られ、一瞬にして俺たちが乗っていく航空機は爆発した。


 ゴウウウウウウウウウウ――


 激しい気流の音と、浮遊感。

 だが何とか意識は残っていた。

 苦しい。だが、必死に辺りを見回す。


 母さん、義父さん、実咲――

 あっ――


 母さんが、全身を炎に巻かれていた。

 義父さん、服に炎がついたままピクリとも動かない。


 実咲、どこだ?


 せめて実咲だけでも!

 

 他の人間なんでどうでもいい。

 実咲を、実咲だけでも、探せ! どこだ!


 ――いた。


 離れたところに、こちらに向いて何かを叫んでいる実咲がいた。

 空中を泳ぐように、実咲に向かってもがく。


 届け、届け!

 実咲を、助けるんだ!


 必死に手を伸ばす。叫んでも、激しい気流の中では届かない。


 届かない。


 どんなに手を伸ばしても、まったく実咲に届かない。


 届かない、届かない、届け!


 せめて、せめて実咲だけでも!


 ……意識が、遠のいていく。


 苦しい、窒息しそうだ。


 視界が暗くなっていく。


 実咲、実咲、みさ……き……。


 全身に力が入らなくなって、目の前が真っ暗になって、意識がブラックアウトした。

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