再び、ひなた時計
「すいません、バイトの初めからいきなり欠勤してしまって」
加奈子の両親の葬式から3日後。彼女はひなた時計にやってきて、まず始めに麻人と凉平に謝った。
凉平が加奈子にフォローする。
「大丈夫だよ。まあ、ちょっと寂しかったけどさ、さすがにご両親が亡くなってまでアルバイトに来いとか言わないさ」
「ありがとうございます」
「それで、どうするの?」
凉平の言葉に、加奈子は口ごもった。
「えっと、その……ご迷惑でなければ、今後もここで働きたいです。私、みんなよりもちょっと早いけど、自立しなきゃって思って。父さんと母さんの遺産もあるうちに、何とか独り立ちできるようにならない取って思って。その一歩として、ここで働かせてください」
「そんなの全然いいよ。むしろ良くそこまで行動できるものだと思うよ」
「本当にありがとうございます」
加奈子は頭を下げた。
「じゃあ、さっそく、お客さんもいるし、気晴らしになればいいと思うけどウェイトレスの服に着替えようか」
「はい」
「なんか辛気臭え女だな。活発でいい笑顔って聞いてたんだが」
「シュウジ」
「あれ? この子は?」
カウンターにいた麻人が紹介した。
「加奈子ちゃんと同じアルバイト仲間だよ。名前は羅シュウジ。オーナーの知り合いで、住み込みで働くことになったんだ」
「そうなんですか」
加奈子よりも背が低く、金髪でぼさぼさ頭、そして中性的な顔立ちのシュウジ。
「この子何歳なんですか? 小学生?」
「なっ! なんだと!」
「え、だって。こんなに小さい子が……」
「オレは今年で十六だ!」
「ええ! 私と同じなの! ちっさ!」
うわあ、と驚く加奈子。
シュウジはチッと舌打ちした。
「まあ、そういうわけでよろしくな」
苦虫をかむような表情で言うシュウジ。
「あ、うん。よろしく」
控えめに言っても、ふて腐れた顔を除けば、確実に加奈子よりも年下に見えるシュウジ。だが、その女性的な美人顔が彼の顔面に張り付いていた。
「……見た目はかわいいのに」
「なにおぅ!」
「性格はダメダメみたいね」
「うるせえ!」
加奈子がくすりと笑った。
「あー、その……」
凉平が加奈子とシュウジの間に入った・
「コイツさ、住み込みの分際で掃除しかやらねーんだわ。だから、接客の方、加奈子ちゃんにお願いしたいんだよね」
「ちょっと、住み込みならもっと働きなさいよ!」
「うるせえ、オレだってここに好きでいるわけじゃねえんだ」
「はぁ、まったく。しょうがないわね」
加奈子が少しだけ胸を張った。
「接客は私がやります。着替えてきますね」
「ああ、頼むよ、加奈子ちゃん」
「はーい」
加奈子はそう言うと、小走りで店内の奥へと入っていった。
「……少しは元気になったかな」
「オレはあんな女と何の関係もないし。しらねーよ」
「確実にお前よりも仕事をしてくれそうだがな、ちび助」
凉平のからかいに、シュウジはふんと鼻を鳴らした。
――――――――――
「いらっしゃうませ」「ありがとうございました!」「ご注文をとってもいいですか?」「ホットサンド二つにオレンジジュースとコーヒーです」「いらっしゃいませ」「ありがとうございましたまたのおおこしを」「いらっしゃいませ!」
その後、加奈子は持ち前の笑みと凛とした接客と柔らかい物腰でアルバイトを続け、次第に明るくなっていった。
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