インターミッション

「ねえ、ブレイク」

 鈴音はブレイクに尋ねた。


「今回の任務、どう思う?」

「どうも思わん」


 ブレイクの言葉は常に簡潔で無感動だった。


「因果、って言うのかしら? アナタの子たちには酷過ぎたんじゃないの?」

「任務だ」


 ブレイクの言葉に、鈴音ははぁとため息をついた。


「アナタは本当に忠実ね」

「当たり前だ」

「皮肉のつもりで言ったんだけど?」

「当然の事だ」

「…………」


「因果?必然偶然、宿命。そんなものに囚われていては、いつか足をすくわれる。その点では麻人と凉平は良い部下だ」


「私が言っているのは、事実じゃなくて精神論よ」


「そんなものがあって何になる? この世界では、そんなヤツが最も先に死ぬ。精神論感情論。そんなものは駄犬にでも食わせておけ」


「そのブレイクの意見、任務におけるその心構えは、僕は肯定できる」

 同席していた鈴音の部下、アックス1こと葉山誠一郎は静かに言った。


「知っているか? とあるマフィアが殺し屋を雇った。だがその殺し屋には報酬よりも先に仕事に美学があり。自分のそのやり方に誇りを持っていた。だが、そのマフィアのボスはこう言った「あの殺し屋が目標を殺したら、その殺し屋も即座に殺せ」と……感情や精神論で戦う人間よりも、金で忠実に動く相手の方が信用できるという話だ。僕はしごく最もだと思ったよ」


「……くっだらねえな」


 誠一郎の隣にいたアックス2、羅シュウジは、気だるく呟いた。


「そんなの当然じゃん。武道や拳法だって、感情で戦うことを是としない。自分の心を制御し、律し、押し殺し、正確に確実に拳を操り戦う。そんなの初歩の初歩じゃねえか。感情を表に出したやつが負けなんだよ」


「あんた達ねえ……」

 冷たいどころか他人事のように話す自分の部下達に、鈴音の額にしわがよった。


「エア=M=ダークサイス。お前はいちいち戦う相手の人生や心を加味して感情を持って戦うのか?」

「…………」


 鈴音は押し黙った。


「そういうことだ」


 ブレイクがもうこの話は終りだとばかりに吐き捨てた。


「私の言っていることは間違っているのかしらね?」

「ああ、間違っている」


「だけど、自分の心に嘘はつけないわ」

「それはお前だけだ。人は自分の心に嘘や誤魔化しで生きていける。重たいものをわざわざ引きずって生きていけるのか? いいや、出来ないな。だからそんな人間はやがて潰れる。絶対にな。人は自分に都合の悪いことを排除し、誤魔化することで生きていられるのだ」


「じゃあ、あんたの子供たちが、突然激しい感情に苛まれた時はどうするの?」


「いつか近いうちに死に、そして新しい部下を補充する」


 徹頭徹尾に鋼のように硬いブレイクの意思に、鈴音はもう一度ため息をついた。

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