降った雨は元にもどらず

 ザアアアアアアアアアアア――


 激しい雨が降り注ぐ中。麻人と凉平は庭崎加奈子の自宅、くじら幕を広げて葬式を行っている家の前で、傘を差してその様子を見ていた。


 庭崎加奈子、彼女の姿は見えない。中にいるのだろう。


 わらわらと、庭咲き家の親族たちであろう人物達が、激しい雨の中でも集まっていた。


 麻人と凉平は、その光景を静かに見ていた。

 凉平が、ぽつりを言葉を漏らす。


「なあ、麻人、俺たちは――」

「俺たちは悪くない」


 凉平が言う前に、麻人がぴしゃりと言った。


「だがよ」


 凉平が食い下がるも、麻人はきわめて冷静に、冷たく言い放った。


「加奈子ちゃんの両親が、世界規模でどれだけの被害者を出していたと思っている? だから俺たちは狩った。狩らなければいけなかった」


「…………」


「俺たちが加奈子ちゃんを不幸にしたんじゃない、不幸を生み出していたのは両親だった」

「あの子は、これからどうするんだ?」

「もしまだバイトを続けてくるなら、普通に接すればいい。去るのならば、彼女の今後の幸せを祈ろう」


「それでいいのか?」


 麻人は凉平の目を見た。それは、悲しみと共に、強く貫くような眼光だった。


「それでいい。それとも俺たちの任務を悪行として、一生懺悔するのか?」

「…………」


「俺たちは『そういう人間』なんだ。もういいだろう……行くぞ、凉平」

「……ああ、わかったよ」

 麻人と凉平は、庭崎加奈子の家……葬式に背を向けて、歩き出した。

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