Sorcery Meteor : Team Sabers

(苦しい……体が熱い……)


 ひたすら走り回る。頭の中が真っ白で、足を滑らせ何度転ぼうとも、ひたすら走り回る。


(逃げたい、逃げたい、逃げたい!


 後ろからやってくる、ワシの命を奪いに、やってくる、やってくるんだ!

止まれない、止まれない、止まったら…殺られる!


 逃げたい逃げたい、逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい!

 誰か、誰か…誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か、助けてくれぇ!)


 道を、廊下を、階段を、ひたすらに走れる通路を走り、途中にあった扉のノブを手当たりしだいにまわす。どのノブも回らなかった……が。


 恐怖という特効薬が、足を引っ掻き回す。体が沸騰したように熱い、自分でも信じられないほどの大きな足音を響かせて走る。


 走る、走る走る、走り回って……。


 行き着いたのは、重量のある金属製の大きな扉。むしゃぶりつくようにドアノブを掴む。


 ドアノブが回った! 力いっぱい、こじ開けるように扉を開く。


 最初に目に入ったのは夜空だった。


 扉のドアノブから手を放して、外に出た。数歩出てからやっと理解する。


 ここは屋上だった。恐怖に突き動かされ、走れる道を走り、ここに行き着いたのだ。


 体が熱く火照り、汗が吹き出ている。酸素を求め、大口を開けて荒い息を立てる。冷たい風が頬を撫でた時、それにやっと気付いた。


 屋上の丁度中央の位置に、男が一人。夜空を見上げ、煙草の紫煙を吹いていた。


 前を開けた黒いトレンチコート。コートの中は黒いスーツと白いワイシャツが見える。体格は大柄で、黒鬼に負けない程のはちきれんばかりの筋肉が、コート越しでも見て取れた。


「柳坂十蔵、表向きは金融業者社長……」


 男が空を見上げながら、淡々とした口調で語りだした。


「だが裏では大量の薬や銃器、そして人身の売買。裏社会では薬屋十蔵という通り名でその地位を伸ばしている」


 真っ白になっていた思考が、再び回転を始めた。

 この場を逃げようと後ろを向くと。


「ひいっ!」


 扉の前は既に塞がれていた。黒いコートの男とレザースーツの男が、静かに扉の前に立っていたのだ。


「お、お前たちは、お前達は何者なんだ!」


 髪を振り乱して、自分を挟んでいる両者を交互に向きながら叫ぶ。


「死神だよ」

「真面目に答えろ! なぜワシらを狙う!」


「じゃあ聞くけど、アンタらが狙われない理由、あんの? あるなら是非とも聞きたいね」


 セイバー2の軽い口調が癇に障り、激怒する。


「聞いているのはワシだっ! 金かっ! 欲しいならくれてやる! これだけの腕なら専属のSPにしてやるぞ! 契約金は言い分でくれてやる! この薬屋十蔵っ! 呼ばれたときから金に困ったことなど一度たりともないっ!」


 大声で叫び散らし、またも息を荒くして、セイバー2を睨みつける。


「いらね、興味ネェヨ」


 変わらない軽い口調で、あっさりと激昂を切り捨てられた。


「じゃあ……じゃあ何が欲しい! でもやるぞ! くれてやるから! 命だけはっ!」


 背後から気配がして、後頭部に固い感触がする。直感で後頭部に銃口を突きつけられたことを知った。


 こちらからは見えないが、セイバーAが、コートの中にしまってあった大型のリボルバー式の銃を、後頭部に構えたのだ。


「お前を抹殺(デリート)する」


 セイバーAが無感動に死の宣告を告げた。


「お前たちは……一体?」


「ソーサリーメテオだ」


 銃の引き金を引く。銃声が一発、夜空へ舞い上がった。


 ――――――――――――


「任務(ミッション)完了。長居は無用だ、ブレイク。早くセキュリティを解除して撤収しようゼ」

「……作戦行動中はコードネームで呼べ。セイバー2」


 セイバーA、ブレイクの無感動な返事。そのままブレイクはセイバー2に背を向けて屋上の扉へと歩き出す。


「へいへい……」


 セイバー2の肩が落ちる。


「任務は、お家に帰るまでが任務ですってか?」

「そう思ったなら心がけろ」


 セイバー1が返した、なぜならブレイクの方はまったくの無視だったからだ。


「はーい、麻人先生―」

「セイバー1だ」


 鋭い眼光がセイバー2、凉平を射る。だがくらった本人にはまったく効き目は無い。凉平は麻人に軽く流し目をして、ブレイクの後に続いていく。


 麻人は、頭を打ち抜かれた柳坂を一瞥して。


「ふん……」


 つまらなそうに鼻を鳴らして、ブレイクと凉平の後に続いて屋上を後にした。

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