第127話 お守りの
「お、おい……」
「ばか、指差すな。この街で商売出来なくなるぞ」
ざわざわ、がやがやとした食堂。いつも賑やかだが今日は一段とそれが激しい。彼らの視線と意識は俺の隣に居られる方に集中していると言って良いだろう。
その騒がしさを作り出している一人の商人が告げた物騒な内容に反応をしたのか、そちらの方へ彼女が視線をやり微笑むと青い顔をした男性二人はそそくさと食堂から出て行ってしまった。
それに続くように、気付けば一人、また一人と人がいなくなりついには俺のいるテーブル以外のお客さんはどこかへと行ってしまった。
「これで少しは静かになりましたね。ごめんなさいね、リースさん。今日の売上が賄えるようにお酒を頂けるかしら?」
「は、はいゾフィーアさん! 店にある奴で質の良い高いヤツから持ってきます!」
緊張で見るからにガチガチになっている看板娘、彼女の名前を初めて知ったが今は恐らくゾフィーアの言葉しか耳に入ってこないだろう。
それに俺としても、今は泣いてる子供をあやしている最中なのでそちらにまで気にかける事は難しい。
「ホリさん、ホリさんよかったぁ……。ホントに、よかったぁ……」
「アレック君、そろそろ泣き止んで欲しいな。喜んでくれて嬉しいけどね」
聡明と言っても彼はまだ幼い。
それでも、年齢そのままの子供のように喚くように泣くのではなく、俺を視界に収めた彼はいきなり飛びついてくるとそのまま静かに震えていた。
マリエンなどもそうだが、この世界の俺に関わる子供は皆子供とは思えない程に精神が早熟というか、何というか……。
ぐしぐしと彼の頭を少し乱暴に撫でているクラリーとも先程再会とお互いの無事をがしりと握手をしながら喜び合った。
「それにしても、ホントに生きててくれて良かったぜホリさん。ほらアレック、男は人前で泣いちゃいけないぞ」
「クラリーさん……。うん、うん……」
彼女は顔を上げてきた泣いている少年の、涙が零れてくる目元を優しく布で拭いながらそう言って聞かせると、アレック君も徐々に落ち着いてきてくれた。
俺やアレック君、そしてクラリーがこうしている間にも男性陣はお酒とジュースを片手にワイワイと話をしている。
「それですと、ホリ様は敵の真っ只中に御一人で残られたと? それはまた随分と豪気な事を……」
「そうだぜセバスさん! あの時は俺達全員、もうホリさんとは会えねえって思っててよぉ……。今日街中で会った時なんて、危うく腰抜かすところだったわ!」
「俺なんてここで思い切り叫んじまったぞ! オバケだぁー! ってな!」
「クックック、その場に居れなかった事が悔やまれるなそれは……」
俺が出遅れたという事もあり先にお酒を飲み始めていた面々は既に酩酊している。
セバスも普段と立ち居振る舞いは変わらずも、お酒を楽しみながらあれこれと話を楽しんでいるし、ゾフィーアも看板娘や他の女性陣と和気藹々と化粧品の話をして盛り上がっている。
アレック君はクラリーがお酒を片手に女性陣のところへ行くと手持ち無沙汰だろうと思っていたが、久しぶりの対面という事もあり一度落ち着くとその後ももじもじとしながらもこちらへ視線を送ってくるのでまだ話したい事でもあるのだろう。
「ホリさん、あの……」
「ん? 何だろう?」
俺とアレック君と二人、宿の親父さんの料理を食べていると意を決した彼が俺の方へ両手を伸ばして、随分と懐かしく感じる見覚えのあるナイフを差し出してきた。
「これ、お返しします」
「おおー、持っていてくれたんだねそれ」
ジーヌ達に同行して道中で過ごした一夜、暇つぶしにと作り上げた我ながらかなりよく出来たナイフ。
「はい……。あの時も、その後も、このナイフを握り締めていると不思議とホリさんが生きていると思えて、それに何だか持っていると安心するのでお守りとしてずっと大事にしてました……」
赤面していじらしい事を言っている少年。
彼のそんな一面に、グッと来ている者が俺以外にも約一名。その女性はバシバシと隣にいるミリーの肩を叩いて何か悶えている様子が見えるが、そちらは放っておこう。
彼の手の上にあるナイフは黒く艶のある鞘に綺麗に収められていて、何処か高級感を感じさせる。
「この鞘は?」
「僕が作りました。以前にこの街の魔道具屋のお兄さんに教わった、少しだけ壊れにくくなるお
一度彼の手にあるナイフを受け取り、中を検めてみると以前と変わらず剣先は丸いままだし、特に砥がれてもいないというのは刃に指を這わせてみればよくわかった。
やはりこれは彼の中で本来の目的とは別の、以前渡した時や彼が今言ったようなまさにお守りとしてこうして大事に持っていてくれたのだろう。鞘まで作ってくれるとは、なんと健気……!
「よし、それじゃあアレック君。はい」
「はい?」
一度状態を確認したナイフを鞘に戻し再度彼の眼前へと差し出すと、アレック君はその行為の意味がわからないと首を傾げつつも受け取ってくれた。
「今度は、君の初恋が実るように祈っておくね。頑張って」
「ほ、ほ、ホリさん! 何言ってるんですか!?」
ぼそりと彼の耳元で囁いてみると、なんとまぁいい反応。ワイワイとやっていた周りもアレック君の様子と、急に上げた大きな声に首を傾げるように眺めている。
「おう、坊主どうした? んー、なんだそりゃナイフか? ようし、このお兄さんが見てやろう! 酷い代物なら、俺がもっといい物用意してやるからよ! 格安で!」
「は、はぁ……」
既に顔全体を赤らめて、飲んでもいないのに酩酊している足取りのセバートが意気揚々と手を伸ばし、アレック君もその勢いに流されるように戸惑いを見せながらも持っていたナイフを渡すと酔っ払いは満足そうに頷いている。
「うむうむ! さぁーて、ロクでもないヤツならジーヌにたっけえナイフ売ってうぶふぉっ!!」
「あ、貴方大丈夫?」
どんな反応をするのかと少し期待していたが、想像以上に良い反応だ。
セバートは受け取ったナイフを覗きそのまま腰砕けのように尻もちをついたのを見て、彼の奥さんやアレック君は心配をしているが俺やバーニー、ゾフィーアなどは笑いを堪えるのに必死である。
「お、お、おい坊主! これをどこで手に入れた!」
「えっ、えっと、そ、それは……」
人見知りな少年に詰め寄るセバートを宥めるように押さえて席に座らせると、彼の奥さんが水を持ってきてくれたのでそれを飲んでまずは落ち着いてもらうとしよう。
「どうしたんですかセバートさん、どうどう」
「……プハァ! 悪い、まさか坊主がこのナイフ持ってるなんて思わなくてよ、つい力が入っちまった」
コップに入った水を一気に呷り、少しトーンが落ち着いたセバートはアレック君を再度強く見つめて問いかけ、最初は驚いてしまっていたアレック君も落ち着きを取り戻している。
「……、これ、そんなに凄いモノなんですか?」
こんな強面マッチョに迫られたらさぞ怖かったろうに、それでも俺の影に隠れるようにしてセバートにそう問いかけるアレック君。
その問いに深く頷いた輝く頭は次に、ワインを傾けて笑顔を浮かべている一人の淑女をちらりと一瞥した。
「ああ、その輝き間違いねえ。ソレを売ってる張本人の隣で言うこっちゃねえが、今この街にいる商人の大半がソレが欲しくて血眼になってるって代物だ。坊主、これを何処で手に入れた?」
「あ、っと、ええっと……」
俺の服を軽く摘まみ、ちらちらと俺の方を見て困惑をしているアレック君の様子を見て、顔の中心を手で隠して何か見悶えているクラリーは本当に、少しやばいと思う。
彼にはこのハゲの迫力は酷だろう、助け舟を出すとしよう。
「フフ、セバートさん。それはアレック君の大切なお守りらしいですよ。それに彼はジーヌさんとミリーさんという凄腕商人の息子ですよ? 流通先を言う訳ないじゃないですか」
「そりゃそうだ。それにしても噂には聞いていたが美しいナイフだな。そりゃ欲しがる奴もごまんといるか」
「そうね、何だかわからないけど不思議な魅力があるわ」
俺の言葉に続くようにバーニー夫妻も加わり、セバートの手中にあるナイフが話の中心へ。ジーヌやミリーはゾフィーアとセバスにこの前の馬車の旅の話を熱く語っているのでこちらにはあまり興味を示していない。
そしてまたも今日は店仕舞いと宿の入口を閉めてきた看板娘も、俺達の話の渦中にあるナイフに見惚れているようだ。
「ホント、綺麗……。ねぇセバートさん、このナイフ高いの? 出来れば私も欲しいなぁ」
「白金貨だ」
「えっ?」
「ハッ?」
「白金貨一枚」
頭頂部の輝きが激しい男性の出した金額に、周囲に集まっていた俺以外の全員が静かにゾフィーアとセバスの二人に視線をやり、アレック君に至っては顔を強張らせるようにしてぷるぷるとこちらを見ている。
一人の女性が荒い息遣いで彼を見守っている姿が彼の視界に入らないように、取り敢えず撫でておこう。クラリーさん、今日はちょっと酷すぎませんかねぇ……。
「う、そだろセバート……? これ、このナイフだけで……?」
「おうよ。なんせこの美しさの上に、一度砥いじまえば一級品の切れ味の更に上を行く最高品質。しかもな、切った相手が鉄だろうと何だろうと一切刃こぼれしねえって代物だ。まさしく一生物だぞ」
随分と価値が上がったなぁ。ゴダール商会の両名、やりすぎじゃないのかな……。
需要と供給のバランスが悪いから、値段が跳ね上がるのは仕方ないかもしれないけどあのナイフで白金貨ならうちの拠点にあるクワとかも高値で売れるなこの街。
もし、これから先セクハラが原因で拠点を追い出されたら、この街で鉱石のアレコレ売って豪遊して心を癒すとしよう。
アレック君を膝に乗せて子供が持つ独特のふわふわの髪を撫でつつ、ひそひそと顔を寄せ合い声を殺して会話をしている彼らの声を盗み聞いていると看板娘からまた新たな情報が出てきた。
「そうだ、セバートさん。ゴダール商会から密かに出てる白銀のドレス、あれももしかしてこのナイフと関係あるのかな……?」
「おう、嬢ちゃん。服の事に関しては知らねえが、鍛冶場の爺があのナイフの素材で仕立てに必要な道具を作るようゴダール商会から受けたって話を聞いたぜ……? 無関係じゃねえと俺は思うがな……」
「相手が相手だからな……。探りを入れようにも難しいよな……」
彼らが情報を交換している間、こちらへ矛先を向ける前にあわあわと狼狽えてしまっている少年と秘密の共有をしておこう。
「アレック君、あれを俺から貰ったって言っちゃダメだよ」
「ほ、ホリさん……。あんな高価な物いただけませんよ……っ!?」
ひそひそと彼と話していると、ある方向から妬みによる小さな舌打ちの音と凄まじい
「いいんだよ、君なら大事にしてくれると思えるしね。お金の事が気になるなら、君が魔道具屋さんになった暁にはサービスしてもらうとするよ」
「もう……」
困ったようにはにかむ少年の笑顔、いじらしい彼の表情と素振りを見逃すまいとある方向から猛烈な熱意を感じるがそれよりも色々と注意しておかないといけないな。
高価な品、という事ならば人目につけない方が良いだろう。
彼とあのナイフについてお互いに約束を交わしていると少し顔の血色が良くなっているゾフィーアがやってきた。
「フフ、ホリさん。先程頂けたオツマミ、まだあるのでしたら是非頂きたいのだけどいいかしら?」
「ええ、ありますよ。別の物もいくつかあるので、そちらもどうぞ」
意外だったのはこういう宿の食事処、酒場のような場所でもこうして嫌な顔を見せる事なく、むしろ楽しんでいるゾフィーア達だ。
ほぼ貸し切りのような状態だからかもしれないが、それでも出てくるワインや料理を笑顔で味わっているし空気も和やか。
そういえば元々冒険者稼業をしていたって言っていたな……。もしかしたら俺よりもこういう場には慣れているのかもしれない。
「あら、これは……?」
「これもうちで作っている物ですよ。魚も美味しいですが、赤ワインならやっぱりお肉の方が良いでしょう? アレック君達はこっちね」
「これは……、焼き菓子ですか?」
「何だとッ!?」
ひそひそと話し込んでいたセバートが俺の膝の上でぽつりと呟いた少年の言葉を聞き逃す事無くやってきてテーブルの上に出した物を見ると、それに続いて他の者達もやってきた。
その内の一つを摘まみ匂いを確かめたり、様々な角度から見て何の肉か確認したりとしているが……。
「これ、兄さんのところで作ってんのか? 保存食みたいだが……」
「こっちのお菓子も? いい香り……」
「どぉれ! 俺達が味を見てやるとするか! 不味かったら承知しねえぞ!」
笑いながらそう言い放ったセバートの声に続いて、四方八方から腕が伸びてきて燻製オツマミやお菓子が各々の口へと運ばれるのを少し緊張して眺めていると一番に反応したのはゾフィーアだった。
「これ、うちで扱いますわ」
「いやゾフィーアさん。食料品はそちらの管轄ではないでしょう!? おい兄さん、これうちに卸してくれ!!」
まさに口火を切ったゾフィーアとそれに続いたバーニーの二人が口論を始めてしまった。どうやら気に入って貰えたようだ、酒好きには堪らない出来になっているのは俺自身がよく知っているがそれでもこうして受け入れられるのは素直に嬉しい。
俺が鞄から出した色々な物を使ったクッキーを口に入れたセバートや看板娘、アレック君もサクサクとした音を立てて味を楽しんでいる様子だ。
「くそ、悔しいがうめえ……。日に一回は食いたい位にうめえ……」
「本当、おいしい……。仕事の合間に摘まみたくなる位おいしい……」
アレック君もキラキラとした目を向けてクッキーをまた一つ口に放り込んでいるが、どうやら甘い物好きがここにもいたようだ。
奥様方にも、クラリーもどうやら気に入ってくれた様子で出した燻製やお菓子はすぐになくなってしまった。
どちらも俺の分が無かった事は言うまでもない。
お菓子の方はまだ鞄の中に残っているが、こちらはまた別の子にあげたいので存在は隠しておくとしよう。
「おい……」
オツマミによる物か、更にお酒が進み一層ワイワイと賑やかに続いている食事中に不意に後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには一品盛られた皿を持ったこの宿の親父さん。
「あ、もしかして例の?」
「おう……」
音も無くテーブルに置かれた白い皿の上には、更にその白さを磨きこんだような純白に輝いている塊がデンと置かれている。
「これは……、まぁいいか! 早速頂きます!」
「おう……」
壊れたラジオのような返答しかしてこない彼ではあるが、表情や視線の端々からは不安のような物を感じさせる。
どうかしたのかな?と思っていると、父のその様子に笑みを零す看板娘がその理由を楽しげに話してくれた。
「フフ、これね? お兄さんとお父さんが前に一緒に作った物を工夫して出来たんだよ! やっとお兄さんに食べて貰えるから、お父さん緊張してるの!」
「おい……」
言葉と表情は恐ろしいが、娘の頭を優しく撫でている親父さん。可愛げのある人だなと思いながらも親父さんが一緒に持ってきたフォークで白い塊に切れ込みを入れてみる。
ふんわりとした白い塊の中から顔を出したのは、以前に親父さんと作ったホットケーキを彷彿とさせる黄金色のスポンジと、酸味を感じさせる香りを放つ赤い透明な液体がとろりと垂れてきて、この組み合わせはどう考えても美味しいだろうとつい生唾を吞んでしまった。
「まさか、こんなところでケーキに出会うなんて……。しかもちゃんとしたヤツ」
「ホリさん?」
つい口から出てしまった言葉に反応した俺の膝の上に座っているアレック君の頭を撫でつつ、一口サイズに切った目の前の明らかに美味しい物体を口に運んでみると、クリームの強烈な甘みとその後にやってくる果物の酸味の醸し出す美味しさについ顔が綻んでしまう。
「うーん、うまーい!!」
「そうか……」
俺の反応を見て、安心した様子の親父さんは一言呟いてまた厨房へと戻ってしまった。あの人、うちのスライム君と本当に気が合いそうだよなぁ……。
「この味なら、昼の賑わいもわかるなぁ。こんな美味しい物放っておけないでしょう」
「そうなの! 前まではお客さんも男の人が殆どだったのに、今じゃ女の人の方が多いかも? あ、でもセバートさんとか、隠れ甘党が毎日のように来るよ!」
「じょ、嬢ちゃんそれは……」
どうやら奥さんに内緒でこのメニューを目当てに通っていたセバートはその後、優しく怒られていた。
そのいちゃつくような様に、つい我を忘れて薬草汁と薬草丸薬を取り出したが流石に人間相手でいきなりコレを喰らわせてしまったら死ぬのでは、と思い留まれた。
最後に料理を何品か仕上げて持ってきた親父さんも輪に加わり、楽しくお酒を頂いている内に時間も過ぎ去りまずアレック君が眠ってしまい、次にバーニーとセバートが潰れるように眠ってしまった。
「あらあら。セバス、そろそろ御開きかしらね? 面倒を見て差し上げて」
「畏まりました」
流石は宿屋、酔い潰れた客用にも部屋があるようでセバスが酔い潰れて眠ってしまった男性陣をそこへ、女性陣は空いている部屋へ看板娘が案内している。
かなりの量を飲んだゾフィーアとセバスの両名は普段とさして変わらず、ふらふらとしている者へ配慮をしていたりまだまだ余裕がある感じ。
うちの酒豪連中といい勝負しそうだなぁと最後のお酒を空けて、俺の膝の上で眠ってしまったアレック君をどうにかしようと思っていると、クラリーがやってきて彼を抱き上げて連れて行ってしまった。
どうしよう、この世界に警察はいるのだろうか? と少し思い悩んでいたところ、同室にミリーも入っていったので一安心。
彼女達を見送っていたところで最後にお酒を飲み干したゾフィーアが音も無く席を立ち、帰り支度を済ませて声をかけてきた。
「さて、ホリさん。楽しませて貰いましたがそろそろ帰ります。明日の朝、うちのお店に来てくださいね。お仕事の話をしましょう?」
「わかりました、それなら明日に備えて私も休みます。また明日」
彼女と男性陣の介抱を終えたセバスと別れの挨拶を済ませ、看板娘やその親父さんがしていた後始末を手伝い終えて部屋に入る。
久しぶりのベッド、マナーとしてはやってはいけない事かもしれないが飛びつくように横になると拠点では味わえない心地よさが体を襲ってくる。
「むはぁー、やっぱりベッドも良いなぁ。藁も良いけどベッド欲しいなぁ……」
明日、余裕があれば家具屋を覗いてみるか……。
正味明日一日で色々と揃えないといけない、無駄な寄り道をしている暇は無いんだけどこの街の魔力がついつい足を止めて気付けば何かを買わされているんだよなぁ。
欲しい物を頭に刻み込むようにして、ごろりと寝返りを打ちながらもう一つの心配事の方も考えているとお酒の力もあって徐々に睡魔が襲ってきた。
「流石に、一日二日で揉める事は無いと思うけど……拠点の方が心配だなぁ」
まだ助けた亜人達の意識はしっかりとしていない。
それでも時間が経てば自分達の置かれていた状況や、殺された仲間達の事を知るだろう。それについても拠点へ戻ったら面倒でもラミア達と話し合いをしなくてはいけない。
「気が重いなぁ……。どうすればいいんだろう……」
枕元にある淡い光を放っている魔石を眺めている内に気付けば意識は闇の中へ。
次に目覚めた時は看板娘の元気な声が聞こえ、少しふらつく頭としぱしぱと朝陽が沁みる目の痛みを堪えつつ食堂へ行けば前日の影響を感じさせない商人達の元気な姿。一部例外もいるが……。
タフだなぁ、と思いながら俺も一緒に食事をして、頭を押さえているジーヌやセバートに後で店に来いと言われたり、バーニーと約束をした後に宿を出る。
朝陽と少し冷たい空気に包まれている街を歩き、目指すは昨日も訪れたこの街一番の商会へ。長蛇の列が朝早くから並んでいる横を通り店の中へと入る。
「ようこそ、ホリ様! どうぞこちらへ!」
「ああ、ありがとうございます」
少しハードな一日が始まってしまったなぁ、とまたも色々な人の視線を感じながら、以前にも対応してくれたイケメンに頭を下げるとそのままゾフィーアの部屋へ案内された。
部屋の主がいない、しかしイケメンが必死な表情で中で座って待っていろと言うので言われた通り待つ事にした。
それほど時間も経たず、がちゃりと開いた扉から入ってきたのは寝ぼけまなこの白銀のガウンを着た眉目秀麗な女性。
「朝からありがとうございまーす!」
この商談で痛い目を見ても良い。
今日は良い一日になるだろうと思えた瞬間だった。
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