第2話 チートってなんだろう
――膝を抱えるようにして、男性が落ち込んでいた。
「パパ、パパ、そろそろ元気出して? 顔が怖いのはわかってたことじゃない?」
その落ち込む原因を作り出した
だが、落ち込んでいる彼も悪気があってした行動ではないだろうし、原因は自分なのだからと改めて謝罪の言葉を口にした――
「あの……、すみません。つい驚いてしまって」
将来確実に美人になるだろうなと思わせるが、それよりも人の物とは少し違う髪や肌、そして瞳の色が目につく少女がこちらを睨むように一瞥しながら再度落ち込んでいる男性に声をかける。
「パパ、あっちの人も謝ってるんだから頑張って?戦わなきゃ、顔が怖いという現実と」
「うぅ……、言葉の端々に
そう述べながらその男性は姿勢と服装を正し、隣の少女もそれに続く。
「私は現在、この世界で魔王をやっております! そしてこちらは私の愛するムスメです! どうぞ今後ともよろしく!」「ヨロシク」
二人は方や怖い笑顔を浮かべながら深々と頭を下げ、もう一方はあまりこちらを見ることなくとりあえずといったような形で頭を軽く下げそう言った。
「あ、これはご丁寧に……。堀井進といいます。まだあまり話の流れに理解が追い付いていませんが」
こちらも自己紹介をしておく。もしかしなくともこれから長い付き合いになるであろう相手なのだ、しっかりと頭を下げておく。
「えぇ、困惑していて当然でしょう! なのでどうでしょう、聞きたいことがあれば私の説明できる範囲でなら説明させていただきますぞ!」
質問形式で色々と聞きたいことがあれば分かる範囲で答えてくれるようだ。
ありがたい申し出だ、現状わかるのは魔王の顔が怖いことや、彼女が親にまるで似てなく可愛いこと、あとはやはり二人共人間のものとは違う肌の色や、瞳の色など目に入る情報しかない。
聞きたいことがありすぎてまず何から聞けばいいのかというある種の混乱した状態なのだが、一先ず落ち着いて一つ一つ聞いていこう。
「ここはどういった場所なんですかね?」
単純なことになってしまうが、事前に聞けたことなんて殆どないまま半ば放り出されたようなものなので、この世界の事を聞いてみよう。
「ここはエンデュミア大陸、嘆きの山と呼ばれる場所の頂上付近です! この辺り一帯は我ら魔族の故郷のようなものですな。かつてここには、様々な動植物や、亜人種、魔族といった者達の暮らす自然豊かな土地でした」
そう言葉を発しながら、彼は感慨深げに目を細めこの場所のことを教えてくれた。
そして、苦笑いを浮かべるように頭を掻き、続ける。
「といっても先の戦争で大敗し、今生存している魔族は散り散りになってしまっておりますが……」
魔王は悲し気にそう説明していった。そうか、先の大戦で敗北したと神様が言っていたなと思い出した。
「人間と戦争をしたということはお聞きしました。私も人間なのですがそこは問題ないのですか? 納得できないところや
一度死んでいるからといって、俺は一応人間だ。
その人間の手を借りるというのは面白くないと感じる点もあるかもしれない。先程からムスメと呼ばれる彼女の態度が刺々しく感じるのも、俺が人間だからという理由があるかもしれないのだし。
「そうですね、そう思うモノもおるでしょう。ムスメも何やら多少不機嫌な態度なのが正直申し訳ないくらいです。目に余るようなら席を外させます
そう言いながら、ムスメの方にチラリと目を向ける魔王とその視線を追う俺。俺達の視線に晒され、ムスメは自分の気持ちを吐露した。
「いや、人間がどうとか関係ないから。顔面不自由な二人でこっち見られても困る。ワダカマリとかないけど、二人とも顔面力すごいよ。それがキビシイ」
どうやら全く関係のないところで彼女は何かと戦い、精神を削っていたようだ。人間だからどうということもないのがわかり、一先ずは安堵する。
魔王と俺はその言葉に軽く心に傷を負いながら、話を続けることにした。
一つ咳払いをした後、魔王に聞いてみた。
「問題ないみたいですね。神様に言われたのは魔王様を手伝ってほしいということだったんですが、私は至って普通の人間です。正直何かできるとは……、この授かった腕輪の使い方すらまともにわかりませんし」
そう言い、神様から貰った恩恵の結晶の腕輪を見せる。魔王とムスメはまじまじとそれを見ながら、ふむと一つ頷いた。
「そうですな、まずはその腕輪を使ってみますか。多分ですが、以前に堀井様のいた世界の映像を神と見ていた時に色々思いついたと言っていましたし、使ってみるとしましょう」
どうやら魔王はこの腕輪について多少の心当たりがあるようだ。これは助かる。魔王はそう言いながらも少し俺から離れ、ムスメもそれに続く。そしてこちらに向き直り、バッと両手を広げた。ムスメもそれをマネするかのように手を広げた。
「意識を腕輪に集中してみていただけますか? おそらくですがいきなり爆発するといったような危ないことにはなりませんし、もし何か危ない事態になれば私が責任を持って助けますのでご安心を」
なるほど、説明を受けたので言われるがまま目を瞑り、腕輪に意識を集中させると掌に温かさを感じた。
腕輪がつけられた時にも感じた柔らかな温かみだ。できたのだろうか? 目を開いてみると……。
「こ、これは……!?」
「そうですな、スコップです」
「出オチ甚だしいね」
光を浴び白銀に輝き、この世のものとは思えないくらいの眩さを放っているスコップを眺め、三者三様の反応をする。
うーん? 神様はチートって言葉を知らないのかな? スコップで戦争しろとか言うのかあのショタ神様は。出てきたスコップでまず神様をぶっ叩きたくなるぞ。
「神様と二人でニホンのゲームの動画を見ている時に関心しておりましたからなぁ。『これは神動画だ……! 』と感銘を受けておりましたよ、神なのに。うぷぷ……」
「サムい親父ギャグだね」
ムスメさんは辛辣ではあるが、正直俺もそう思った。魔王様は笑ってるが、どこで笑う要素があったのか。
神様の言っていた地球の知識はゲームの実況動画だったようだ。しかも魔王と神が並んで何をしているのだという実に素朴な疑問も湧いてくる。
意外性のあまり、頭が回らずクラクラしているとスコップが光り出し、腕輪の形へと姿を変えて、光が収束していく。
そしてもう一度意識を腕輪に戻すとまた別の形になろうと輝きを放っている。
そして輝きが治まったそこには……。
「こ、これは……!?」
「そうですな、ハンマーです」
「何回やるノ?」
さすがに両手を広げるポーズをやめた二人。
魔王は腕を組み、何かを考えているように見える、そして俺の手の中にある輝いたハンマーを見つめながらムスメが呟いた。
こうしてみると彼女のぱっちりと開かれたその目が人のそれと違うことが事細かにわかる。結膜が黒く角膜の部分が鮮やかな赤だということ、瞳孔もよく見ると何か形が違う。魔王は角膜の部分が金色に見えるが、目を覗きこむと怖いのであまり直接目を合わせていない。
「ソレ見た目はキレイだね、形がアレだから可愛くないけど……。これを武器にしろってことなのかな?」
当然の疑問である。
正直これなら剣とか槍とか武器らしい武器が出てくるのが定番と言えば定番であろう。なのにスコップとハンマーって。
他に何か変わるのかな? と少し意識をすると……。
「あ、また形が変わるよパパ!」
「うむ、スコップからハンマーときたら次はなんでしょうな? クワとかの農耕器具でしょうか ?それとも斧などの伐採道具でしょうか?」
彼の中で武器が来る期待値はもはやゼロである。いったい何になるのだろう?
「こ、これは……!?」
「そうですな、ツルハシです」
「私知ってる、これテンドンってやつだね」
答えは採掘道具でした。
なんだろう、この腕輪へのがっかり感。今あるのは神様が開拓系ゲームが好きだという事実と、傍からみた自分がどれほど愚かなピエロなのかという恥ずかしさと期待していた腕輪への喪失感である。様々な感情が入り混じり、思っていたことが口から出ていた。
「なんだよこれ……! ゲームからとるならなら他にいいのがあったろ! ドラ〇エとかF〇とか! なんで
「魔〇村等のアクションでもいいですな」
「私的には神様なら天〇創造とかア〇トレイザーもアリだと思うんだ」
くう、せめて武器が出てくれよ! どうしたらいいんだろうこれ……。
そう頭を抱えて考えていると、魔王が言葉を口にした。
「あぁ、大丈夫です。元々、神様の力を使って戦争に勝とうというつもりはありませんでしたし、恐らくですが神様も言っていませんでしたかな? その力で争い事はできないと」
「見た目はブッソウだけどね、ハンマーとか」
そういえば消えかける時にも矢継ぎ早に色々言われたな。自分の親が交際している相手がいるという発言の方に意識がいってしまって忘れていた。
でもそうなると、当然のように疑問が湧いてくる。
「それだと、私はいったい何をすればいいんですか? 魔王様の頼みというのも聞くのを忘れてましたが、これで役に立つことができるのですか?」
魔王は組んでいた腕を解き、こちらを見ながら笑顔で話し出し先ほどと同じように両手を広げた。笑顔が怖い。ムスメもそれをマネしているが、何かの作法なのだろうか? 親の真似をしたい年頃なのか。
「そうですな! 言うのが遅れてしまいましたが、実は私の頼みというのは貴方に魔族の
「ここでは、この話をしても納得がいかないかもしれないですな。少し場所を変えましょう。ムスメよ、下に降りるぞ」
「ハーイ」
二人は少し会話を交わすとこちらに歩み寄ってきた。
「堀井様、少し飛びますぞ」
「え?」
こちらが何か言葉を繋げる前に浮遊感に襲われた。
それもその筈、言うな否や魔王とムスメ、そして俺自身がふわりと浮かび山の頂上と思われた場所から降りている。まさに今、空を飛ぶという未知の体験をしているのだ。そして先ほどまでいたのは山の頂上、相当な高度である。
「うわっ!?」
そこそこ早い速度で空中を降りていることに頭が回らない。ただ恐怖が心を支配して咄嗟に怖い顔の魔王にしがみついてしまった。
「はっはっは、大丈夫です。死ぬようなことにはなりません。それよりもあれを見てくだされ」
魔王はそう笑いながら地面の方を指さした。
そこにはおよそ生命の鼓動を感じない荒野が広がっており、遠目でも草木のような大地を彩るものは見つけられなかった。
「あれは……?」
「戦争の名残ですな。ここはそれまで緑豊かな樹海で、とても美しい場所でした。ですが、この辺り一帯は人間達の使った
愕然として、息を飲み込む。結構な範囲に荒廃した土地が広がっている。
もしこの範囲を全て焦土にしてしまう魔法なんて向けられたら、そう考えただけで背筋が凍る。
「まぁ、この範囲全てソレが原因ではなく、そのような魔法を撃ち込まれ、魔族側も歯止めが効かなくなり、お互い死力を尽くした結果このようなことになってしまっているというのが正しいですな」
その時、ムスメの方からギリッという音がした。先ほどまで飄々としていた様子だった彼女が、今は歯を食いしばり顔を強張らせ苦々しくその光景を眺めていた。
そんなムスメの頭に手をポンと置き、撫でながら魔王は話を続けた。
「争いあった結果とはいえ、悲しいですな。そしてこの一帯は我らの故郷。その場所がこのようなことになるとは、恥ずかしい限りです」
フフフと苦笑しながら魔王はそう言った。
その怖い笑顔に、ムスメの機嫌も回復したようだ。しかしそれを聞いても尚、言葉を返す事は難しい。この光景はそれ程の衝撃を心に訴えてくるものであった。
そうしている内に、地面へと降り立つ。足元を見ても雑草一つない。
剥き出しの岩や砂しかないとても悲し気な荒野というのがその場にいるだけで感じ取れる。
「話が暗くなってしまいましたがこれが現状です。そして先ほど言った頼みに繋がるわけです。住処、とはいいましたが普通の街や村などをここに作るのは難しいでしょう。川も森も消え、土も生きているかわかりませんからな。ですが、私があなたに作って頂きたいのは普通の住処ではないのです」
どういうことだろうかと首を捻っていると、後方から音がした。そして振り向いた先の光景が改めて異世界なのだという認識を強くする。
「おぉ、帰ってきましたな。堀井様、ご紹介しましょう現存する魔王軍です!」
効果音でも出そうな勢いで魔王とムスメはバッとそちらに手を向けそう言った。
そこにいるのは某ゲームで国民的ワードになった所謂スライムと、数多くのRPGでまず最初に相手に出てくることが多いゴブリンと呼ばれる生き物が並んでいた。
え、魔王軍これだけ……?!
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