第二章 心の在り処Ⅳ
薄暗い部屋の中、ライカはまるで今まで水中で溺れていたかのように大きく息を吐き出しベッドの上で飛び起きた。呼吸が乱れ、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
自身の汗だくになった身体を見渡し、そして自嘲した。
―――また、あの夢か。
幾度となく繰り返される悪夢。あの日の光景。幼かった自身の脳裏に焼き付いて離れない戒め。呪い。
ライカは喉を潤すために腰を上げる。窓際の机に置いた水の入った容器を乱暴に掴むと、グラスにも注がずそのまま口へと運んだ。
捉えきれずに溢れた水が、口の端から喉元へと流れ落ちる。
口元を腕で拭き取ると、ライカは容器をまた乱暴に机へと戻した。その衝撃により、端に置かれた何かが倒れる。
ライカはふっと息を吐き、倒れたものを持ち上げた。それは手のひらと同じ大きさの四角い木枠だった。枠の中には一つの写真が収められていた。
写真の中心には祖父がいた。その隣には母、そしてその腕の中にはまだ産まれて間もない赤子のライカの姿があった。
母と祖父の周りには、何人かの男の姿もあった。その中には、いま現在この施設の所長をしているグーニーズもいる。
【灼熱のラッセル】と呼ばれてはいたものの、炎の魔術だけでなく数多の魔術に精通していた祖父の元には、弟子を志願する者が絶えなかったと聞いていた。
その中から、特に素質のある者を選りすぐり、その技術を伝授していたのだと。
グーニーズもその一人だ。そしてグーニーズの隣で微笑んでいる長髪の男。今はこの施設の地下に幽閉されているあの男だ。
―――まったく、爺も甘いな。
ライカは一人笑みを零した。その表情は泣いているようにも見えた。
自分の父親は写っているのだろうか。母はついにその答えを口にすることはなかった。
写真立てを机に戻し、ライカはベッドへその身を放り投げた。
目を瞑り、そして誓う。
―――もう二度と、誰にも、あんな思いはさせてたまるか。
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