緊急入院前夜までの記憶

アテロームという病気①

 息子の腫瘍治療の経過を、時系列に発見からまとめる上で、どうしても書いておかなければならない、全く別の病があります。アテローム、という病です。


 これは皮膚科、形成外科の領域の物なのですが、子どもが母親の体内で細胞分裂をし、人の形になって行く過程、特に皮膚が作られる時に、どうしても『皺』の様な、折り重なった部分が出来てしまう物なのだそうです。これだけであれば、実は誰しも、身体の何処かにはそうした箇所があって当然な物らしいのですが、稀に皮膚表面と通じた穿孔が残る場合があり、この場合は皮膚表面で起きた代謝……汗や汚れがその穴の部分から袋状の空洞になった皺の内側に入り込み、それが溜まって行くと、膿んだり、感染症を起こしたりする、という、歴とした病気になってしまうのだそうです。


 息子は生まれついて小鼻の右横に、ぽちっとした傷のような物がありました。本当に極小さな物で、かなり顔を近づかなければ分からない程の物でした。時折、角栓の様な物が付いている事があり、わたしが気付けば取り除いていましたが、その程度の物でした。それが、大きく腫れたのは2017年3月の事です。掛かり付け医に受診をし、腫瘍の恐れがある為、念の為、小児専門の大病院を紹介して頂き、そちらに受診。この時は排膿手術をして、今後も膿が溜まることが続くようであれば、皮膚下で袋状になっているアテローム自体を切除する事にしましょう、となりました。


 ここまでを読んで、不思議に思われた方もあるかも知れません。こうして書いているわたし自身も、とても不思議に思うのですが、息子はこの時点で、腫瘍とは全く異なる病気で、腫瘍の疑いを掛けられ、約半年後に腫瘍で緊急入院する事になる病院に、偶々入院し、手術までしていたのです。この経験がなければ、わたしもあの日、息子のある異常な症状を目にしても、小児専門の大病院を受診させた方がいい、という選択肢は、直ぐには浮かばなかったかも知れません。


 時々、息子とこの時の話をすることがあります。常に物事をポジティブに捉える性格の息子は、おれは運が良かった、と言います。アテロームになっていて、良かった、と。勿論、本来なら何も起きない方が良い訳ですが、息子にとっては、災い転じて何とやらなのかも知れません。

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