第7話 計画

 まだ梅雨も抜け切らぬ六月の、ある日の昼休み。

 昼食を食べ終え、特にやることもなくいつも通り音楽を聴きながら昼休みが終わるまで一眠りしようかと思い顔を伏せ、目を閉じる――が、背後から気配を感じ、勢いよく振り向くと、途中で何かにぶつかったかのように動きが止まった――と言うより、それ以上動かせなかったのだ。

「イッテェ!……何すんだよ」

 痛みの発生源である頬を撫でながら、再度振り向くと、そこには、俺の頬に刺した人差し指を抜き、悪戯な笑みを浮かべた戸成綾乃となりあやのの姿があった。

「引っかかったね」

 彼女は、更に笑顔になった。

「めっちゃ痛いんだけど……」

  人と長らく関わってないもので、こういうイタズラには疎遠になっていたせいで痛い思いをしてしまった。

「で、なんか用?」

 彼女の顔は、まだ何か言いたそうだったので、取り敢えず本題に入るように促す。

「計画を練るから集合です」

 と言い、先日と同じ場所に先日と同じ八人が集まった。

 部活に所属している池端いけはた楠田くすだ高部たかべ降旗ふりはた戸部とべの五人は手に一枚のB5サイズのプリントを持っていた。プリントには幾つにも枠組みがしてあり、その枠一つ一つに時間が書かれていた。そう、夏休みの部活動予定が書かれた紙だった。

 その紙には、空欄の箇所が幾つかあり、そこには、マーカーで印がしてあった。

  恐らく、部活が休みの日だろう。

 戸成はその紙を受け取ると、横一列に並べた。

 すると、一箇所だけマーカーの線が一本に繋がる日があった。

「7月25日だね……決定!」

 戸成は紙を指さしながら少し大きめの声で言った。

 すると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 生徒達が慌ただしく教室を出入りしていく。

 今までそんなこと考えてもみなかった――と言うより考えられなかった。自分がその立場になるとなんて。

 午後の二時間の授業が終わり、帰宅する。

 早速、自分の部屋にかけてあるカレンダーの二十五日の欄に【遊園地】と書き込む。

 その時、何か大事なことを忘れているような気がした。とても大事な何かを。

「そう言えば、集合時間と、集合場所……決めてないよな? この間は皆で自己紹介しただけで、今日は、いつ行くかしか決めてない……やっぱり集合時間決めてないな」

 取り敢えず携帯を手に取り、グループの画面を開く。グループにも集合時間は書かれていなかった。

 ここは、自分が言うしかないと思い、文字を打つ。

 しかし、俺の手が送信のボタンに触れることはできなかった。

 グループで自分から何かを発信するという事は、クラスの中で静かな中で、自分からクラス中に問を投げかけるのと大差ないと思うと、異常なプレッシャーのせいで、送信する事ができなかった。

 できないことは仕方ないので、戸成に「集合時間と場所って決めてなくないか? 」と送る。

 数分後に、携帯が電話が来たことを知らせるために小刻みに振動した。

 案の定戸成だった。

「はい、もしもし」

『集合時間と場所決めてなかったっけ?』

「多分、俺の記憶の中では」

『そうだったっけ。エヘへ、うっかりしてました。教えてくれてありがとう。じゃあね』

 そう言うと電話はブツっと音を立てて切れた。

 それから数分後に、グループに一件の通知が来た。勿論、戸成からのもので、そこには、「集合時間と場所を言ってなかったので伝えておきます。十時に駅前集合です。ps市埜いちの君が気付きました」と、書いてあった。

 すると、「そう言えばそうだね。市埜君ありがとう」などと皆が言った。

 文字であっても感謝されると少し照れくさかった。

 これからの事に期待を馳せると共に、あと一週間後に迫った壁を突破するための準備に取り掛かった。











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