第4話 提案

 戸成となりに感謝と謝罪を告げて、はや1週間が経過した。その間、彼女とは全く関わっていない。これで良かったのだ。俺に関わっても不幸になるだけ。なら、関わらない方が彼女のためなのだ。いつも通り音楽を聴いていた。すると、急に肩を叩かれた。唐突に我に返り、目を開ける。そこには、戸成の姿があった。

「……着いてきて」

 彼女は唐突にそう言った。唐突すぎて全く状況が飲み込めなかった。

「どこに?」

 とにかくそう聞くしかなかった。

「……遊園地」

 休み時間で騒がしい教室内に彼女の声は溶けるように消え、俺の耳には届かなかった。

「今なんて言った?」

「いいからいいから。あと、今携帯ある?」

 そう言われ、カバンから携帯を取り出すと。

「連絡先交換しよ?」

 当然、俺の携帯の連絡先など好きこのんで聞くやつなど金輪際現れないと思っていた。なんせ、俺の携帯の中に入っている連絡先は、親と祖父母のみなのだから、俺がいかに人と関わることを避けたかが伺える。だが、彼女が連絡先を交換しようと言うのだから、断るのも悪いだろうと思った。言われた通り連絡先を交換した。彼女は、「ありがと」と一言いい颯爽と去っていった。

「……嵐のような人だな」

 と、呆気に取られた。あの会話以降、その日の会話はなかった。家に帰り、荷物を置く。特に意味は無いが、携帯を開いてみると、通知が一件あった。案の定、戸成からのものだった。開いてみると、一つのグループに招待されていた。グループ名はと言うと、だった。

「遊園地……?」

グループに入るかどうか悩んだ。このまままた彼女と関わってもいいのだろうか。また彼女に迷惑をかけてしまうのではないだろうかと。だが、このまま無視してしまえば彼女はどう思うだろうか。その時、ふと気付いた。俺は何を考えているのだろうか。人と関わるのをやめたはず、なのに何で、こうやって連絡先を交換して、連絡がきて、グループに招待されているのだろうか。この時初めて気付いた。彼女が話しかけてきたから根底にあったもの全てが、変わろうとしていた。人と関わることを頑なに拒み続けた俺が、人との関わりを少しづつ持ち始めた。それもこれも彼女が話しかけてきてくれたから。このまま、彼女と一緒にいれば、俺がずっと囚われ続けてきたから抜け出せるかもしれない。抜け出すことが現時点での最善の選択かは今は分からない。でも、彼女が、戸成がいてくれれば俺の中の全てが覆る気がする。それなら、今は信じてもいいかもしれない。彼女を。

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