第3話 離れていく
――初めてだった。彼女になら、俺の過去を話してもいい気がした。彼女には、そんな魅力があった。
彼女は、そこそこのルックスを備えている。頭も程々に良い。それに加えて、人当たりがいいのだ。いつも陽の光の当たるところ、いわゆる、陽だまりのような存在なのだ。陰に生きる俺とは、正反対な存在なのだ。そんな彼女が、わざわざ陰に生きる俺に話しかけてくれた。相談に乗ってくれると言った。その厚意を無下にする程俺は道徳のない奴ではない。だが、一つだけ言いたいのは、他の人が話しかけてきたのならこの結末にはならなかったかもしれないという事だ。彼女だから今、この現状に至っているということだ。
「そろそろ話すよ。俺の過去を」
彼女の顔は至って真剣だった。それから俺は話した。親友が死んだこと、父親が死んだこと、人と関わることをやめた理由を。
「そっか……そんなことがあったんだね」
彼女は、俺の言葉を正面から受け止めてくれた。そんな気がした。暫く沈黙が続いた。
「ごめん。こんな暗い話して」
「ううん。私、軽率だったかも……」
すると、彼女は校舎の中に消えていった。大体予想はついていた。こんな話していい気持ちな奴なんていない。
「……軽率だったのは俺の方だよ。ちょっと人から優しくされたのが嬉しくて……何独りで舞い上がってんだよ。馬鹿みたいだな……」
こんなにももやもやした気分なのに、空はそれを嘲笑うかのように晴れ渡っていた。そこで、初めて気付いた。自分には、人を不幸にする才能があるのかもしれないと。
教室に帰ると真っ先に、
家に帰り部屋に入ると、カバンを床に放り投げ、ベッドに倒れ込んだ。
「……最悪だ」
そう呟いた。あんなこと話さなければ良かった。もう、彼女とは関わらない方がいいかもしれない。互いの為にも。そんなことを考えているうちに意識が遠のいていくのを感じ、そんな感覚に身を委ねた。
目を開けると、窓からはカーテンが邪魔だと言わんばかりに光が漏れていた。昨日、ベッドに倒れ込んで考え事をしているうちに寝てしまっていたのだ。時間を見ると、まだ午前四時だったので、シャワーを浴び、再度就寝した。そして、三時間ほど経っただろうか、午前七時を告げるアラームが携帯から鳴った。起床し身支度を済ませ登校する。 教室に入り周りを見渡す。戸成はまだ登校していないようだった。彼女にはなんと言えばいいだろうか。そんなことを考えていると、戸成が教室に入ってきた。彼女は自分の席に行き荷物を下ろすと椅子に座り俯いた。彼女の行動を横目になんと言うべきか思考をまとめ、席を立つ。
「なぁ、戸成ちょっと良いか?」
そう言うと、彼女は顔はこちらに向けず無言で頷く。周りの視線が自分に集まっている気がした。
「また、屋上で話さないか?」
そう言うと、彼女は立ち上がり教室を後にした。彼女の後を付いて行き屋上にたどり着く。相も変わらず屋上への扉はキイキイと耳障りな音を立てながら開いた。昨日と同じ場所に立ち戸成を見る。彼女の表情は良いものとは言えなかった。
「話なんだけどさ、まず昨日は話しかけてきてくれてありがとう。それと、あんな話してごめん……軽率だったのは俺の方だった。自分のことしか考えてなかった。あんな話したら戸成はどう思うか、俺の考えが足りなかった。本当にごめん、だから、もう気にしなくていいよ」
「……それじゃ、何も解決しない」
彼女は呟いた。俺には彼女がなんて言ったか聞こえなかった。聞き返すのも野暮かと思い流すことにした。空を見上げると、天気予報は晴れだったはずなのに、空は灰色に塗られていた。
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