最終話 二人の書~ケビンとコレット・終~

 ~コレット~


「よいしょっ、材料はこれで全部かな?」


 ここはリリクスより大きい街だから、すぐに材料が手に入ったわ。


「……リリクスか」


 ケビンさんの肉体を取り戻す為に、復活や蘇生といった言い伝えのある場所を巡る旅も始めて約1年……この旅の間に、ケビンさんのいい所も悪い所も色々と知れた。

 白竜の遺跡での出来事も色々と聞いたけど……私の為に色々と動いてくれていたのは素直に嬉しい。

 ……ただ魔晶花、コア、黄金の剣といった高級すぎるプレゼントや大げさな行動はさすがにやりすぎな気がするかな。


 旅に出る前も、かなり大変だったな~。


 マークさん本人の意識が戻ったのは良かったけど、ツボに頭からから突っ込んだ辺りまでの記憶しかなくて事情を説明。

 そうしたら、地面に穴が空くまで謝り倒し……その後は、何だかんだ言いつつもグレイさんが知り合いの冒険者に口利きをしてマークさんはパーティーに入れてもらいリリクスでやり直しをしている。


 ジゴロ所長さんは、ずっと押さえつけていた反動で大爆発。

 ケビンさんとナシャータさんを無理やり研究所に連れ込み、2人が出て来たのが3日後。

 何があったのかは大方想像がつくけど、ナシャータさんのげっそりとした顔をして「もう嫌じゃ……」とブツブツ繰り返していた姿が忘れられない。


 アカニ村に戻った時は本当に大変だった。

 騒動が起きない様に、ケビンさんが前もって事情を書いた手紙を書いて送っていたにもかかわらず教会へ帰ったら……スケルトン姿のケビンさんに、神父様は椅子から転げ落ち腰を強打、シスターは白目を向いて昏倒、マリーとブレンは泣き叫びながら教会から逃げ出し、ヘンリーは箒でケビンさんに殴りかかってきたりと大騒動が起きてしまった。後でわかった事だけど、手紙の中身はちゃんと読んでおらず字だけでケビンさんが生きていると思い込んだらしい……。

 なんとか私とグレイさんで必死に皆を落ち着かせて説明する事丸1日。

 神父様とシスターは理解してくれて、ついに神父様とシスターがケビンさんと再会……さすがに、あの時は涙が止まらなかったな~。

 ただ、ずっとヘンリーは警戒心を解かず、マリーとブレンもケビンさんを全く見たいようにしていた。

 当然といえば当然の事なんだけど……いつか、3人ともケビンさんに心を開いてくれるといいな。


「っと、早く宿に戻らないと。ケビンさん達が帰って前に完成させ……ん?」


 あの花屋さんに売っている、紫色の花すごく綺麗……。




 ~ケビン~


『ブクブク……』


 あー水中から見える太陽がキラキラしていて綺麗だなー。


《どうだ、ケビン。蘇生できそうか?》


 綺麗な景色が一転、グレイのムサイ顔が出て来た。


 ――ザバー


 この湖の水を飲むと、どんな病もたちどころに治ると言われている。

 だから、飲めない俺は全身で浸かってみたんだが……。

 

『……そんな気配は全くないな』


 普通の水に浸かったとしか思えない。


「そうか、この湖の話は迷信だったか」


 正直、聞いた時から怪しいとは思っていたんだ。

 そんなすごい湖のはずなのに、街からちょっと離れた山の中にあるんだからな。


「そうじゃろな、この湖に魔力なんかまったく感じないのじゃ」


『「それを早く言えよ!」』


「もしかしたら、わしが気付かない何かがあるかもしれんじゃろ」


 この旅に、ナシャータが付いて行くと言い出したのには流石に驚いた。

 【母】マザーはナシャータの生みの親でもあり守護者なのに、それを簡単にポチへ守護者の座を押し付けて、遺跡に束縛。

 それでいいのかよ、守護者……つかポチが哀れすぎるぞ。


『……今に始まった事じゃないからな、宿に戻るか』


「そうだな。――えーと、次の目的地は北地方か……飲むと不老不死になれると言われる不死鳥の涙か」


 こうして、伝説やら昔から伝えられている所を回っているんだが……。

 賢者の石と言われていたただの赤い水晶、神秘の力を持つ秘薬だと信じられていたただの酒、そしてさっき浸かった湖とガセばかり。

 

『……次も、効果が無い気がして来た』


 いい加減、このスケルトンの姿を隠すために着ているフルアーマーセットを脱ぎたい。

 いちいち着けるのが面倒くさいんだよ、これ……。



『ただいまー』


「あ、おかえりなさい」


 ただ、この旅も悪くはない。

 何せコレットも仲間として付いて来てくれたからな。


「どうでしたか?」


 どうと言われても……。


『――見た通りだよ』


 いつ、フルアーマーを取って生身の姿をコレットに見せられるのだろうか。


「あ~……また駄目でしたか……」


 又とか言われてしまったよ。


「ん? クンクン……何やらいい匂いがするのじゃ!」


 匂い?

 テーブルの上にケーキが二つ置いてある。


『……なんでケーキがあるんだ?』


「今日は6月11日ですよ」


『6月11日……? あっ!!』


 そうか! 今日は――。


「はい、今日はケビンさんと私の誕生日です!」


 しまったああああああああああああ!!

 蘇生の事ばかりですっかり忘れていたああああああ!!


「ああ、ケーキを作る為に今日は付いてこなかったわけか」


 コレットの手作りケーキ!

 これは絶対に食わなければ――。


「――あ~ん! ん~! コレットのケーキはうまいのじゃ!」


 ナシャータのやつもう食ってやがる!


『こらああ! 俺のケーキを食うなあああああ!』


「何を言っておるのじゃ、ケビンは食べられんのじゃぞ……はむっ!」


『そうだけど、そういう問題じゃ――』


「あの、ケビンさん。これをどうぞ!」


 コレットが目の前に出して来たのは、紫色の花束?

 確か名前はエノメナだったかな。


『これは?』


「え~と……誕生日プレゼントです。本当なら、もっとちゃんとしたのを送りたかったのですが、見た瞬間にすごく綺麗な花でしたので花束にしちゃいました……」


 ケーキだけじゃなく、俺の為にプレゼントまで!


『……嬉しいぞ! すごく嬉しい!! 俺も――』


 ――って!

 俺ってば、コレットのプレゼントは何も買ってねぇじゃねぇか!!


『ちょっと待っててくれ! 今すぐ買って来る!!』


 これは、一番してはいけない痛恨のミス!

 何とかして良いプレゼントで挽回せねば!


「え? 今すぐって……ちょっ! ケビンさん!? その姿のまま出ちゃ駄目です!! 鎧を着て下さいいいいいいいい!」


「もぐもぐ……まったく、騒がしい奴らじゃの」


「エノメナの花か。コレットが花言葉を知らずに無意識で買ったとなると……こりゃ、ケビンも急がないとな」


「むぐむぐ……あの花がどうしたのじゃ?」


「エノメナの花言葉は、【あなたを信じて待ちます】だ」


「なるほど、そりゃ急がないといけないのじゃ」



『宝石店はどこだああああああああ!?』


「宝石!? 流石にそんな高価な物は! ちょっとケビンさん、待ってくださあああい!!」




 ◇◆アース歴201年 6月11日・昼◇◆



 スケルトンでも愛してほしい! ――終――

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