第151話 ケビンの書~奪還・8~

 それに、こんなでかい音をたてたら人が寄って来てしまうかもしれないじゃないか。

 こんなとこを見られたらここも騒ぎになってしまうぞ。


《おーい、早く俺を引き上げてくれ》


「ポチはしらん!」


《へ? ……あっちょっと!》


 ポチが屋根伝いに、そのまま走って行きやがった。

 しょうがない奴だな……たかだか肉が無かったくらいで。


《おーい、ナシャータ。早く俺を……》


「……」


 なんだ? あの嫌そうな顔は……。

 おいおい、また面倒くさいとか言うんじゃないだろうな。


《面倒くさがらずに頼むよ!》


「……面倒という話じゃないのじゃ、誰も今のお前に触りたくないのじゃ」


《はあ? いや、確かに生ごみも混じっているが……それくらい我慢をしてくれよ》


「我慢できるか! なんじゃその肩に付いている緑色のスライムらしき物体は!? 見ているだけで鳥肌が立つのじゃ!」


《緑色のスライム?》


 あ、本当だ。ナンダコレ? 今までこんな物は見た事が無いぞ。

 む? 腕には黄色の液体が付いて……おいおい! なんかその部分から煙が出て、ガントレットが溶けてきているんですけど!?


《何だこのゴミ捨て場は!? ……まさか、研究所とかで失敗した奴がここに捨ててあるのか!》


 だとしたら大問題じゃねぇかよ!

 くそっ! 肉体はないとはいえ、骨にも影響がありそうだ。

 今すぐ鎧を脱いで――。


「――今音がしたよな?」

「犬か猫じゃないの?」

「かもしれないが、ドラゴニュートの騒ぎがあったんだ。一応見といたほうがいいだろ」


《――っ!?》


 やばい! 人が来た!

 どっどうする、声から察するにもう近くまで来ているみたいだから鎧を脱ぎ捨てている暇がないぞ。

 仕方ない、ナシャータには我慢してもらうしかない。


《ナシャ……っていねぇし!》


 あの野郎、状況を見て即座に逃げやがったな!?

 今日のナシャータは、やたら逃げまくっているな……ドラゴニュートの気品はないのかあいつは。


「音がしたのは辺りなんだが……」


 やばっ声が近い!

 どうする? 一体どうするよ?


《――あっ、これだ!》


「……あれはゴミ捨て場か? ……っ! そこにいるのは誰だ!?」


《……》


「……プレートアーマーの人? 剣士か冒険者かしら?」


《……》


「足元がだいぶとふらついているな……あ、酒瓶を手に持っているぞ。ありゃ酔っているみたいだな」


「ねぇもしかしてさっきの音は、あの酔っぱらいがゴミ捨て場に突っ込んだせいじゃないかしら? 変なのが鎧に付いているし……」


《……》


「そうかもな。なんか煙が出て一部が溶けているみたいだし……あっ! そうだったーギルドの招集がかかっていたんだったーいそいでいかないとー!」


「そっそうだったわねー! 早く行きましょう行きましょー!」


《…………行ったか》


 酔っぱらいの振りをしてごまかしたが、別の意味であいつら逃げて行った気がする。

 今は助かったが、ここは介護とかしてくれよ……冷たい時代になったもんだな。


《さて……目立たない様に遺跡に帰らないと……》




 ◇◆アース歴200年 6月23日・夜◇◆


 やっやっと遺跡に着いた……。

 慎重になりすぎて辺りがすっかり真っ暗になってしまった。


「お、やっと戻って来たのじゃ。ずいぶん時間がかかったじゃないか」


《誰のせいだ! 誰の!! おかげでリリクスから逃げ出すのに相当苦労したんだぞ!》


「わかったわかった、小言ならその体を洗った後に聞くのじゃ。お前まだ緑のスライムを乗っけておるのじゃ」


 まだ付いていたとはしつっこいな。


《わかったよ……》



『ふぅー……』


 汚れは鎧に付いていたのと、肉体のが無いから汚れでの不快は無かったが……体を洗っていると気分的にはさっぱりするな。


『……にしても、今日は色々ありすぎたな……』


 やはり、一番驚いたのは時間の流れだ。

 俺が目覚めた時の装備の劣化具合からある程度は経っているのは予想はしていたが、リリクスの発展具合にグレイが老け具合、ざっと50前後くらいに見えたからと落とし穴に落ちてから約30年っといったところか。

 それならば四つ星級になっていてもおかしくはないが……ないんだが、やはりあのグレイがと思うと納得いかんよなー。


 そして、俺が泥棒扱いにされた事。

 恐らく店で起きた騒動を、あの泥棒発言の女が何処かで見ていて勘違いしたんだろう。

 いい迷惑だ、そもそもコレットもコレットだ。ちゃんと事情を説明してくれていればあんな事には……あれ? そういや俺は寄生の鎧の事をコレットに話して…………ないじゃないか!

 そりゃ俺が店主を倒して鎧を持って外に出て、さらには全力で走って行ったなら泥棒扱いになるわ!

 これは完全に俺の自業自得じゃないか。


 んで、考えても全くわからないナシャータがマリーになっている問題。

 グレイと一緒にいたのは逃げ出した後に捕まったと考えるべきだろうが、何故ナシャータは逃げ出さなかったんだろ?

 それに、グレイの奴はナシャータをマリーと似ていないのに勘違いしたのかもわからん……。


『これは直接、ナシャータに聞いてみるか』


「わしにか?」


『――きゃあああああああああああ!』


「おわっ! なっ何じゃ、女子の様な叫びをあげよって!」


『なななんでお前がここにいるんだよ!?』


 つか普通、水浴びしている女を男が覗きに来るものだろ。

 なのにスケルトンの水浴びを、ドラゴニュートが覗きに来るってどんな状況だ!


「いや、遅いから心配して見に来てやったのじゃ……というか、お前は骨なんじゃから大事な所を隠す意味がまったくないと思うのじゃが?」


 あ、本当だ。とっさに両手で下半身を隠してしまっている。

 水浴びの所を見られたら、肉体が在ろうと無かろうとつい隠しちゃうもんなんだな。


『これは条件反射だから仕方ない……だろう……』


 そうだ、この言葉のやりとりも疑問の一つじゃないか。


「? どうしたのじゃ?」


『リリクスで思ったんだが……もしかして、ナシャータたち以外には俺の聞こえていないんじゃないかと』


「はあ? 何を今さらそんな事を言っておるのじゃ。もしかしなくても、骨であるお前がどうやって声なんか出すのじゃ? わしはそっちの方が気になるのじゃ」


 やっぱりそうだったのか!!


『でも、それじゃお前と会話が出来ているのはなんでだよ!?』


「会話というか……ん~簡単に言えば己の意思で魔力の波長を作り出す念話みたいな物じゃな。魔力が低い人間相手じゃと波長全く通じんし、意思のない低級モンスターはそんな事は出来んのじゃ。しかし、スケルトンのケビンはそれが出来ていた……じゃからわしはお前の存在が面白くて、今まで付いていたわけじゃ」


 俺、無自覚でそんな事をしていたのか……あれ? となると……。


『……それじゃなにか? 俺は声が出ていないのに、ずっとコレットに語りかけていたってわけか?』


「そうじゃな」


 そうじゃなって……そんな大事な事はお前と出会った時に言ってくれよ!!

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