第152話 ケビンの書~奪還・9~
スケルトンは骨だの存在だ、だから喉がない、故に声が出るわけがない。
普通に考えれば、そんな事は当たり前なんだが……目覚めた時の俺は、何故スケルトンになったのか考えてもわからないという結論に至ったせいで考えるのを辞めてしまったからな。
それに目と耳は遺跡内を捜索しているに自然と変化には気が付いたが、声に関してはコレットと会話する前に殴られてしまってわからずじまい。
そして、その後は会話が出来るナシャータとの出会い……この流れで声の問題に気が付くわけがないだろう。
まぁ最初に考える事を辞めてこんな簡単な事に気が付かなかった俺も馬鹿だが……それでもだ。
『何でそんな大事な事を、今まで教えてくれなかったんだよ!?』
この事についてはすごくすごく、すごおおおおおおく! 大事な事だ!
声が聞こえていないという事はコレットに、俺の意思がまったく伝わっていないという事だからな!
「教える何も、お前はそんな事は一言も聞かんかったじゃろうが」
『そんなのは当たり前だ! なにせナシャータとはずっと会話しているんだからな!』
「はあ!? わしには聞こえておるんじゃから、会話するのは当たり前じゃろ!! それは八つ当たりにもほどがあるのじゃ! それ以上は――」
『うっ!』
いかんいかん、つい興奮して熱くなってしまった。
それにナシャータが魔法をぶっ放す準備をしているし、これ以上突っかかると体を洗いたてじゃなくてもバラバラにされてしまうから止めておこう。
『確かにそうだな……すまん……』
「わかればいいのじゃ」
はぁ……危ないところだった。
近頃、俺を黙らすにはバラバラにすればいいって感じになってしまっているな。
『……にしても、ショックだなー』
コレットをゾンビから助けた時、かっこよく決めたのに聞こえてなかったんて。
他にも声をかけて所は全部無駄……俺の聞こえない独り言状態……。
そう考えると知らなかったとはいえ、まぬけすぎてめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「ずいぶんしょげているみたいじゃが……もう過ぎた事じゃし、気にするな。あと、いつまで水に浸かっている気じゃ?」
『……』
悔しいが、ナシャータの言う通りか、聞こえてない物はもはやどうしようもない。
そんな恥ずかしい事は俺の心の中に閉まっておこう。
『今上がるよ……しっかし、そうなると今後どうすればいいんだ?』
ナシャータかポチに通訳を頼むか?
いや、それだと2人がいない時困るし……確実に嫌がるよな。
ダメ元で俺の言葉が通じる方法がないか聞いてみるか。
『なぁ俺の言葉をコレットに伝えられる方法はないのか?』
「ん? まぁあるにはあるのじゃ」
『そうだよな、そんな方法が……あるの!?』
何だ、方法があるならこの問題は解決しているじゃないか。
それでコレットと会話が――。
「わしの魔力を小娘に流せばいいのじゃ」
――できねー!!
全然、解決していないし!
『それじゃコレットが爆発するじゃないか!』
魔晶石みたいに、木っ端みじんになるコレットなんて見たくねぇよ!
「しんわ! 魔晶石は離れておったし、なによりあの光のせいじゃ! 直接触れれば魔力の調整なんて簡単じゃ!」
本当かよ……前科がある分、どうもな。
『それに魔力を流すとなると、魔力中毒になるじゃないか』
「そこも心配はいらんのじゃ、少しだけ魔力を送りお前との波長を合わすだけじゃ。問題があるとすれば人間たちがわしの言う事を信じるかどうかじゃな」
人間たちというか、俺も信じては無いんだが……。
「おい、なんじゃその目は!? 全く信用していないようじゃが!?」
いつもながらよくわかるな。
まぁとりあえず、ナシャータの方法は最終手段として候補には一応入れておくか……。
『んー声以外で確実に思いを伝えられる方法か…………あっ』
俺は馬鹿だなー考えるまでもないじゃないか、声が聞こえないのなら文字、つまり手紙を書けばいい。
研究室には紙も書く物あるしな、本当はコレットに愛の言葉を書いた手紙を渡したい所だが……そこは我慢。優先するべき事はコレット達に俺の現状を知ってもらう事だ。
そう考えるとグレイに手紙を読んでもらった方が確実だろう……あいつなら俺の事をわかってくれるはずだからな。
『よし、さっそく手紙をグレイに……あ、グレイと言えば。……なぁナシャータ』
「わしが気分を害しているのに話かけて来るとは、どんな神経しとるんじゃ。はあ……なんじゃ?」
『何でお前は、リリクスでマリーちゃんになっていたんだよ?』
リリクスで起こった数々の中で一番の謎。
グレイの中でナシャータがマリーちゃんになっていた件。
マリーちゃんの事はコレットから聞いていたんだろうが、何故ナシャータ?
「ああ~その事か……前に小娘への薬を持って行った時に、あの男と鉢合わせをしてしまったのは話したじゃろ?」
『ああ、それでグレイに超! 万能薬を渡したんだよな』
あの時はまだグレイとわからず見知らぬ男にってキレたが、グレイだとわかると……うん、やっぱりブチ切れていたな。
「そうじゃ。でじゃ、どういう訳かあの男はいきなりわしを「コレットの妹のマリーちゃんか?」とか言い出したのじゃ」
『……ふむふむ…………んん? ちょっと待て、出会っただけでそう言われたのか?』
「そうじゃ」
『わしはマリーでーす! とか言ったんじゃ?』
「何故わしが、そんな事を言わねばならんのじゃ! そもそも、マリーという奴が誰なのかも知らんのに言えるわけがないのじゃ!!」
そりゃそうか。
「わしも混乱したが、その勘違いに乗ってその場をやり過ごす事にしたのじゃ」
『……』
今日までグレイはナシャータの事をずっとマリーちゃんと思っていたのは分かった。
だが、グレイがマリーちゃんと判断したところがやっぱりわからん……。
「その後は果物を買ってもらい、薬を渡して帰って来たのじゃ」
結局、答えにたどり着けなかったな。
『ところで、何で果物を?』
「さあ?」
『うーん? ……ハッ! まさかあいつ!』
マリーちゃんの事をコレットから聞いている内に、少女趣味に目覚めていたのか!?
そして手当たり次第に声をかけ、乗って来た娘には食べ物で釣って……。
『いかん! それはいかんぞ、グレイ! 人の趣味にとやかく言いたくはないが、それだけは絶対に辞めさせなければ!!』
「……よくわからんが、わしはお前が何か大きな誤解をしている気がするのじゃ」
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