第145話 ケビンの書~奪還・2~

 リリクスはこっちだったな。

 手遅れになる前に、早くコレットの傍へ行かないと!


「――ん? ちょっと待つのじゃケビン! まさか、今から街へ行く気じゃないじゃろうな!?」


『その通りだ! 今すぐに――』


「いやいや!! 馬鹿を言うな! スケルトンの姿で行ってどうするのじゃ!」


『……あ』


 そうだ。この姿のままじゃリリクスの中に入る処か、手前で討伐されてしまうだけじゃないか。

 しかも、遺跡内じゃなく外で体がバラバラになった場合は再生が出来ないかもしれない……そこも注意をしないといけないな。


『……すまん』


 ナシャータが止めてくれて助かった。


「まったく、わしが街へ行く時にはこの姿に文句を言っておったくせに……自分のその姿がもっと駄目じゃろうが」


 返す言葉もねぇな……。

 あの時はナシャータは上にマントを羽織って誤魔化したし、俺も何か着て誤魔化さないと。

 今は少しでも時間が惜しいが、こればかりは仕方ない……バザー跡地で着る物を探すとしよう。


『……えーと…………お、これならいいかもな』


 布の服に布のズボン。

 これならば、一般人と同じだから大丈夫だろう。

 さっそく着替えて……。


『……って、腰がないせいでズボンが履けないし!』


 くそっこういう肉体が関わる時は本当にこの身体は不便だな。


「何を言っておるのじゃ……ズボンうんぬんより、お前の頭が思いっきり出ている時点で服は駄目じゃろ……」


『……』


 そうだよな……何処に頭蓋骨の頭をした一般人がいるんだ。


「気持ちはわかるが焦りすぎじゃぞ、少しは落ち着くのじゃ」


 確かに今の俺は焦りすぎだな……落ち着け、落ち着くんだ俺。


『……だったら……これしかないか』


 最初からこれにすれば良かったんだ、ナシャータと同じタイプのフードマント。

 これならフードを深々とかぶりって頭を隠せばいいし、体も隠れる。


『これならどうだ?』


「どうと言われても……フードを深々と被ろうと角度によっては、その真っ白いその骸骨の顔が見えるのじゃ。なんだか死神みたいじゃぞ……」


 死神ってまた物騒な例えだな。

 しかし、死神か……ふむ、それはそれでいいかも。

 大鎌を持って、目の部分に魔晶石をはめ込んで光らせる、それだとかっこよく……いや、さすがにそれはないか。俺が10代ちょっとの頃なら確実にやっていただろうが、今の俺は大人になったんだ。

 っと変な妄想していないで、どうしても足を引っ張って来るこの顔の対処を考えないと。

 手っ取り早く顔を隠すなら仮面系か布を巻くかなんだが、それだと目立ちすぎるよな。


『……んー何かいい物はないか……ん? あれは……』


 ヘルムがアーメットタイプのプレートアーマーが置かれてる……そうだ、あれなら全身を覆えるし顔も出ない! まさに今の状況にピッタリじゃないか!


『あれを着る事にするぞ!』


 しかも、コレットが初めて遺跡に来た時の装備にそっくりだ……いやー何か運命的な物を感じるな。

 これは神が俺にあのプレートアーマーをつけろって言っているんだな。


「ふむ、確かにあれじゃと中身は見えんじゃろうが……お前、あの鎧を付けれるのか? 着た瞬間バラバラになりそうじゃが……」


『あー……多分、それに関したら大丈夫だろう』


 【母】マザーの強化は相当強力だからな、これくらいの重さは耐えられると思う。

 ただ水分系にはめっぽう弱いから、鎧の中が湿ってないか気を付けないといけないが……。


『……よし、湿ってはなさそうだ。ナシャータ、すまないがこれを付けるのを手伝ってくれ』


 本当はこんな子供みたいな事をしたくは頼みたくないんだが、これは付けるのに時間がかかるからな。

 ただでさえ服選びに時間がかかったんだ、少しは短縮させないと。


「わしがか? はあ……仕方のない奴じゃの……」



 よしよし、重みで体がバラバラになる気配がまったくない。

 着る分には問題なかったな。


「お~本当にバラバラにならんかったのじゃ」


『だから言っただろ?』


 ただ、俺に対しての問題はなかったのだが……このプレートアーマーは問題ありだ。

 明らかに粗末品だぞこれ、拾って来たのを適当に継ぎ接ぎして修理してある……いや、修理とは言えないほどの手抜きだな。

 よくまあこんなものをバザーで売っていたもんだ、どんな詐欺師が売っていたのやら。


「それじゃ、この兜を頭にかぶせるのじゃ」


『ああ、頼む……。――って! なんじゃこりゃ!》


「どうかしたか?」


《あーい、いや……気にしないでくれ》


 何なんだよ、このアーメットは! ただでさえ見えにくいのに、覗く穴まで一部塞がれてるじゃねぇか!

 こんな物は1ゴールドだって買わんぞ! もし、こんな物を買う奴がいたら馬鹿だ馬鹿。


「? とりあえず、これで全部じゃ。ふむ、この格好じゃと中身がスケルトンじゃとは誰も思わんじゃろ」


《……そうか……ならいいんだが》


 とは言ってもこれのおかげで街に行けるから、一応感謝はしておくべきか。

 さて、だいぶ時間を食ったがこれで準備は整った。

 さっそくリリクスに行――。


「それじゃポチ、わしらも準備するのじゃ」


《……え?》


 準備だと?

 なんの?


「は~い」


 いそいそと二人がフードマントを羽織っているが……。

 え? まさか、こいつら。


《ちょっと待て、もしかしてお前らも来る気なのか?》


「もしかしなくてもそうじゃ、お前だけじゃと心配じゃしな」


 マジかよ!


《ナシャータはともかく、ポチも来るのか!?》


「むっなにかもんだいでも?」


 大ありだっての!

 ナシャータだけでもおもりが大変なのに、ポチまで増えたらさらに大変になるのが目に見えている!


「そう言うな、ポチだけを置いて行くなんてかわいそうなのじゃ」


 長年あの部屋に放って置いて何がかわいそうだ、だよ。

 言っている事とやっている事が違い過ぎるぞ。


「よ~し、準備が出来たのじゃ! 鎧を取り返しに行くのじゃ!」


「お~!」


 来るなと言っても、こいつらは俺の言う事を聞かないだろうし。

 はぁーすげぇ不安だ、リリクスで大騒動にならなきゃいいんだが……。

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