第144話 ケビンの書~奪還・1~

『……』


「――よっと、今帰ったのじゃ。ケビン、体の方は……ふむ、どうやら再生はされたようじゃな」


『……』


「? なんか、ひざをかかえてとおくをみていますね。めのまえはかべだけど……」


『……』


「スケルトンがあの姿で座っていると、怨念が残っているみたいでものすごく不気味なのじゃ……おい、ケビン! 体が治ったているのなら採って来たこの実を調理にするのじゃ」


『……』


「お~い、ケビン! 聞いておるのか?」


『……』


「なんのはんのうもありませんね」


「仕方ない奴じゃの。ほれ、これはポチの分じゃ」


「やっぱりなまでたべるんですか……」


「わがままを言うな、わしも菓子で食べたかったんじゃから……。これを食べたら今日はもう寝るのじゃ」


「は~い」


「さすがに一晩放って置けば、ケビンも元に戻っていよう……たぶん……」




 ◇◆アース歴200年 6月23日・朝◇◆


「……ん~……ふあ~……良く寝たのじゃ……ポチ、起きるのじゃ」


「……くわ~……むにゃむにゃ……おはようございます」


「うむ……さて、ケビンは……ここにはいないようじゃな……」


「もしかして、きのうのままかもしれませんね」


「ハハ、さすがにそこまでは――」



『……』


「――あったのじゃ……」


『……』


「いっぽも、うごいたかんじがありませんね」


「昨日の朝も、一晩中呆けていたケビンを見た気がするのじゃが……」


『……』


「じゃが、こっちの方が朝から辛気臭くてたまらんのじゃ。こら! いつまでくよくよするな、ケビン!」


『……んあ……?』


 今、頭に衝撃が走ったが……ナシャータの奴が俺の頭を叩いたのか?


「お、反応したのじゃ……じゃしたら、さっさと殴っておけばよかったのじゃ。おい、ケビン、お前の体はとっくの前に再生されておるのじゃ。いい加減シャキッとするのじゃ! シャキっと!」


『……へ……?』


 ……ああ、本当だ……いつ間にか俺の体は再生されていたのか……。

 はあ……シャキっとしろ言われてもな……体は再生されても、宝物が消えたショックで傷ついた心は全然再生出来ていないんだよ。

 とはいえ、ナシャータに言ってもわかってくれないだろうがな。


「……なんか今一つじゃな、もう一発殴ってみるか?」


「ポチてきには、このほうがおとなしくていいですけどね。きのうはエサがうるさくしたせいで、ポチがひどいめにあったんだし」


 うるさくって……それは仕方ないじゃないか。

 だって、コレットがあの寄生の鎧を持ち帰ってしまっ――。


『あああああああああ!!』


「おわっ! 何じゃ急に!?」


「……しまった、よけいなこといっちゃったみたいだ」


 そうだったあああああああああ!!

 あの寄生の鎧を、何故かコレットが持って行ってしまったんだった!

 コレットの絵も大事だが、コレット自身が一番大事!


『こんな所で座っている場合じゃない! 早く何とかしないと!』


 今頃コレットが鎧を着てしまっていたら……。

 考えるだけでおぞましいぞ!!


「……ポチの言う通り、大人しい方がよかったかもしれんのじゃ」


「またばらばらにするんですか?」


『っ!?』


 ちょっ、さすがに今バラバラにされたら色々と厄介だ。

 ここは誤魔化さないとまずい。


『……なっ何を言っているんだ、おっ俺は平常心だぞ。ほら! こんな場所では菓子なんて作れないから、【母】マザーの所に戻ろうぜ!』


 菓子の話を持ち出せば誤魔化せると思うんだが……。

 どうだ?


「「……」」


 2人が細目で俺をめっちゃ見ているし。

 このままだと本当にバラバラにされかねん……ここはもうごり押しで逃げるしかない!


『そっそれじゃ俺は先に行っているからなー! 早くお前らも来いよー!』


「……はしっていっちゃいましたけど、いいんですか?」


「……まぁいいじゃろ、ケビンは簡単にバラバラになるしの」


 聞こえてるんですけど!

 簡単にバラバラって、人をパズルみたいに言いやがって。


『……だが、本当の事だから言い返せない自分が悲しい』



『出来たぞー』


「やっとなのじゃ。――いただきますなのじゃ~あむっ!」


 さて、菓子を作っている間も鎧の事を考えたが……やはりどう考えても街に行って取り返すしかないよな。

 そうなるとナシャータが街へって事になるが、今回は事が事だけにナシャータだけを街に行かせるのも不安だ。


「もが? ……なんじゃジロジロと人の顔を見よって」


 かと言って、ポチに行かせる方がもっと心配だし。

 2人に行かせては2倍心配なだけ……。

 こうなったら……。


『俺が街に行って、鎧を取り戻す』


「――ブッ!? おまっ何を寝言を言っておるのじゃ、お前は遺跡から出れんじゃろ……」


 確かにナシャータの言う通り、今の俺は遺跡の外へは出られない。

 だが、可能性はある。


『ああ、確かに……だが、これらを使えば出られるかもしれん!』


「ん? 【母】マザーの葉に、ネバリ草?」


 ここ数日で結界について少し分かった事がある。

 まず、魔力が高いモンスターは入り口の結界を通り抜けられる事。

 そして、ネバリ草に【母】マザーの葉を混ぜた物でも魔力を得られる事。


『そうだ、【母】マザーの葉を混ぜたネバリ草を俺の体に塗れば外に出られるかもしれない!』


「また変な事を言い出したのじゃ……」


 またってなんだよ、またって。

 俺は何時でも真剣だっての!



 【母】マザーの葉を混ぜたネバリ草を体中に塗った。

 後は、遺跡の入り口から外に出るだけ。


「……わしは、そんなにうまい事いくとは思えんのじゃがな……」


『やってみないとわからんだろう!』


 必ず成功させて見せる!

 というかこればかりは成功させないといかん!


『ふぅ……行くぞ……』


 頼む、俺を遺跡から出してくれ!


「あるいているだけなのに、なぜかきんちょうしますね……」


「そっそうじゃな……」


 後5歩、4歩、3歩、2歩、1歩――。


『――っ!』


「「……あ」」


『……』


 入り口で弾かれる事も、歩みも止められる事もなかった……。

 地面は石じゃなく土、見上げても石じゃなく青い空、辺りを見渡しても石の壁はなく遠くまで見る……つまり今、俺が立っている場所は――。


『やった……やったあああああああああ!! 俺は遺跡の外に出られたぞおおおおおおおおおおおおお!!』


 これでコレットの元へ行ける!!

 待っていてくれ!

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