第129話 ケビンの書~消滅・3~

 ◇◆アース歴200年 6月22日・朝◇◆


「……んん……ふわぁ~……もう朝か。ポチ、起きるのじゃ……」


「う~……おはようございます……ごしゅじんさま……くあ~……」


「……む? まったく朝菓子の匂いがしないのじゃ。お~い、ケビン? 朝菓子はどうな――」


『ウフ、ウフフフフフ……』


 ああ、コレット……。


「――って……はあ!? おい! ケビン!」


『フフフフ――うおっ!? ちょっおい、いきなり宝箱を揺らすな! びっくりするだろ! ……おっ?』


 体が動く、いつの間にか体が再生されていたのか。

 だとしたら、さっさとこんな狭い宝箱からでよっと。


「……まさかとは思うのじゃが……もしかして、一晩中宝箱に入ったままでその絵を眺めておったのじゃあるまいな……?」


『へ? 一晩中だと? ……ああ、今は朝なのか』


 眠くならないとはいえ一晩中この絵を見ていたのか。

 いやー、楽しい時って本当に時間がたつのが早いな。


「……その感じじゃと、本当に一晩中眺めていたみたいじゃな……たかが絵にお前は何をしていおるのじゃ……」


 たかが絵だと?

 はあー、まったく分かっていないな。


『たかが絵ではない! これは芸術なんだよ!』


 今まで芸術と言われた絵や銅像を見て来たが、俺には全くわからなかった。

 そりゃわからなかったはずだ……何せ、これが本当の芸術だったんだからな!


「芸術じゃと? 確かに精密ですごい絵じゃとは思うのじゃ。じゃがな、これは小娘の絵じゃぞ……わしはお前の言っている意味がまったくわからんのじゃ」


 この芸術がわからんか……やはり、お子ちゃまのナシャータには早すぎる様だ。

 この想いが通じないとは悲しいぜ。


「その顔、お前わしをすごく馬鹿にしておるじゃろ」


『イヤ、ベツニ』


 でも、この顔で出た表情は通じているのは何故だろう。

 俺はそこがわけわからんぞ……。


「……もういいのじゃ、頭が痛くなってきたのじゃ。ポチ……わしはもうひと眠りするから、朝菓子が出来たら起こしてくれなのじゃ」


「は~い」


 朝菓子か、めんどくさいが仕方ない。

 だがその前に、このコレットの絵はどうしようかな。

 本当なら肌身離さず持っていたいが、腰ミノに挟んでおくっていうのはさすがにな……しかし、ここには衣服がないし、今ナシャータを起こしたら怒りそうだし、ポチが言う事は聞くわけがない。


『となると……俺が入っていたこの宝箱にしまっておくか――これでよしっと』


 んー念の為に、蓋の周りをネバリ草でくっ付けるか?

 取るときは水をかければいいし……っていやいや、俺は馬鹿か。

 そんな事をしてしまったら中の紙まで濡れてしまう可能性があるじゃないか。


『あ、待てよ……』


 昨日の金粉みたいに【母】マザーの葉とネバリ草を混ぜて、体に塗ればより頑丈になるのではなかろうか? うん、物は試しだ。やってみよう。


「お~い、エサ。なにしているの? ごしゅじんさまのごはんをはやくつくらないと」


『わかっている。ちょっと待てって』


 そうせかすなよ。




『よし、こんなもんかな……ふむ』


 思った通り、【母】マザーを全身に塗った事により流れてくる魔力が強くなった……気がする。

 後は、菓子を焼きながらついでにネバリ草を乾かそう。

 それじゃ菓子を作る準備に取り掛かろうか。


 ――ズズ


「ん? いま、なにかおとがきこえたような」


 音だって?


 ――ズズ


 あ、本当だ。

 何か引きずっている様な音がする。

 

「……二人とも気を付けるのじゃ」


「あ、ごしゅじんさま」


 ナシャータが起きてきた。

 しかも、かなり真剣な顔つきになっている。


「……かなり嫌な予感がするのじゃ」


 ナシャータが身を低くして、すごく警戒している。

 何だ、そこまでするほどの危険が迫っているのか?


 ――ズズズズズ


「グルルルルル……」


 ポチが唸り声を出している。

 一体何が迫って来ているんだ?


『……』


 何だか、俺まで緊張してきた。


「――っ! そこの通路から来るのじゃ!」


《シャアアアアアアアアアアアア!》


『なっ!』


 通路から飛び出してきたのは、ジャイアントスネーク!

 何でこんな遺跡の中にいるんだ!?


《やっと見つけたぞ!!》


 ちょっ! しかも、このジャイアントスネークしゃべったし!


《このまま脱出しても良かったのだが、貴様らに一泡吹かせないと気が済まんからな!》


 は? こいつは一体何を言っているんだ、まるで最初から俺らを知っているような口ぶりだが……いや待てよ、この声はどこかで聞いた事があるような気がするな。

 ……ん? ジャイアントスネークの尻尾の先になにかがくっ付いているが、何だろう。


『あれは、皮の鎧? ……ああ! お前、もしかして寄生の鎧か!?』


《そうだ! 生命力を感じて目を覚ましてみれば、どういう訳かこのジャイアントスネークの尻尾の先についていたのだ。それでこの体を乗っ取った!》


 まじかよ……こいつ人間以外にも寄生が出来たのか。

 というか、ポチの奴はなにやってんだよ。


『おい、ポチ! ちゃんと捨ててなかったのか!?』


「かみなりがおちたばしょにむかうとちゅうに、あいていたあなになげすてたけど……」


 その投げ捨てた先にヘビの尻尾があって、ハマったと……なにその偶然。

 まあいいジャイアントスネークは厄介とは思ったが、正体があの鎧なら引きはがしたら本体ごと終わりだ。

 偶然で寄生されたジャイアントスネークには悪いが、運が悪かったと諦めてくれ。


『ナシャータ、さっさとあの鎧を取って……って、あれ?』


 ナシャータの姿が無い。

 さっきまでそこにいたのにどこ行ったんだ?


『おいおい、こんな時に……あ、いたいた』


 いつの間にか、瓦礫の間の端っこに移動している。

 なにやっているんだ、あいつは?


『おーい、ナシャータ。遊んでないで……』


「……なのじゃ……」


『あん? なんだって?』


 どうも様子がおかしいな。

 何があったんだ。


『もう少し大きな声で――』


「じゃから! わしはヘビが大っ嫌いなのじゃああああああああ!!」


『……………………はあ!?』


 上位モンスターのドラゴニュートが、たかがヘビ如きに何言ってんだよ!!

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