第128話 ケビンの書~消滅・2~

「むり」


『……へ?』


 ポチが戻って来たが、その第一声が意味不明だ。

 無理? 無いじゃなくて?

 ……もしかして、俺の聞き間違いか?


『すまん、もう一回言ってくれ』


「だから、むりだった」


 聞き間違いじゃない、やっぱり無理と言っているな。

 どういう事だ?


「――よっと、戻ったのじゃ。おっポチ、戻っていたのか」


 良かった、ちょうどナシャータが戻って来た。

 ナシャータなら意味が分かるだろう。


「ごしゅじんさま、おかえりなさい! ……? そのかかえているたからばこはなんですか? なかから、がさごそとおとがするんですけど……」


 あの宝箱に捕ったものを入れて来たようだな。

 それ以外は何も持っていないから、どうやら大物は捕れなかったらしい。


「これはポチが待ち望んでいたものが入っているのじゃ。残念ながら小物ばかりになってしまったじゃがな……」


「え!? ほんとうですか! おおきさなんてかんけいないです! すごくうれしいです!! いますぐたべていいですか!?」


 ポチの尻尾がピンと上がって、ものすごい早さで左右に振ってる。

 果たして中身を見たらどんな反応するんだろうか……。


「そう慌てるな、落ち着くのじゃ。これはケビンに調理をしてもらって……ってなんじゃ、まだ宝箱に入ったままなんじゃな」


 入ったままで悪いか。

 俺だって早く宝箱の外に出たいよ。


『仕方がないだろう、またバラバラにされたんだから……それよりもポチが戻って来て、意味不明な事を言っているんだ』


「意味不明な事じゃと? それはどういう事じゃ、胸当てはどうなってたのじゃ」


「あ~むりでした」


「ふむ……ん? 無理じゃと? 無かったじゃなく?」


「はい」


「???」


 いや、首をひねってこっちを見られても……。

 ナシャータにもわからんだか。


「ゆかがくずれおちていたんです。そのしたにおりたんですけど、どうやらむねあてはがれきのしたじきになってしまったみたいで、ポチがほりだすのはむりでした」


 あーそういう意味で無理って言っていたのか。

 というか、最初からそうやって状況を言えっての! そうすれば謝を悩ます事も……って、瓦礫の下敷きだと!?


「なるほど、そうかじゃったのか。なら仕方がないのじゃ」


『いや! 仕方がないの一言で終わらすなよ!』


「そうは言ってもじゃ、ケビン。絶対にへしゃげておる物を掘り起こしてどうする気じゃ? さすがにそんな物を小娘に渡すのはどうかと思うのじゃが……」


『うぐっ』


 確かにそうだ。

 あーあ……コレットへのプレゼントが潰れてしまうなんてショックだ。


「あ、そうだ。――そこで、これをひろいました」


 ポチが1枚の紙を取り出した。

 あの位置に落ちていたって事は、コレット達が落とした奴かな?

 だとしたら見取り図か……あっもしかして俺への手紙とか!?


「ふむ、これは紙じゃな。――お? これは……」


『どうした? その紙に何が書かれているんだ!?』


 くそっこの位置だとよく見えん!

 すごく気になる!


「あの小娘の絵が描いてあるのじゃが……ほぉ~この絵はすごいのじゃ、かなり精密に小娘が描かれておるのじゃ」


 コレットの絵だと!?


『それを見せてくれ!』


 動きたいのに動けない、このもどかしさ!


「そうわめくな、紙じゃから逃げはしないのじゃ――ほれ」


『――おおっ!!』


 本当だ、紙に描かれているのは紛れもなくコレットだ!

 それにナシャータの言う通り、かなり精密に描かれていて本物が目の前にいるみたいだ。


『かわいい……』


 絵とはいえ、こんな近くでコレットをまじまじと見ていなかったからな。

 ああ……見れば見るほど愛おしい……。


「しかし、何故そんなところに小娘の絵が落ちていたのじゃろうか」


「なんでですかね」


 ふっ、この二人にはわからんか。


『……簡単な話だ』


 そう答えなんて一つしかないんだからな。


「どういう事じゃ?」


『これはコレットが、俺がさみしくない様に置いて行ってくれたんだよ!』


「「へっ?」」


 それしか考えられん。

 いいや、それ以外ありえないと言った方がいいか。


『でなれば、こんな精密な絵をこんな所に置いていくわけがない! ああ、コレット! 君は何て優しい娘なんだ!』


「わしは普通に落としていった可能性もあると……駄目じゃな、まったく聞いておらんのじゃ」


「ごしゅじんさま、もうこのにくをたべてもいいですか?」


「あ~そうじゃな……あの調子じゃと体が治ったところで、当分は自分の世界から戻ってきそうにもなさそうじゃし……仕方ないのじゃ、食べてもいいのじゃ」


「やったあああああ! それじゃあけますね! ――っ!?」


 ポチの雄たけびが聞こえた気がしたが……それが喜びだったのか、恐怖だったのか、どっちだったんだろう……まぁそんな事はどうでもいいか。


『ウフ、ウフフフフフ……』


 今はコレットの事だけを考えていたい……。

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