第111話 コレットの書~撮る物・5~

 ――ザアアアアア


「雨、強くなってきましたね」


 雨が本降りになる前に遺跡に着いてよかったわ。

 また体が濡れて風邪をひきたくはないし。


「そうだな。さっき稲光も見えたし、さっさと遺跡の奥に行くか」


「はい。……あれ? エフゴロさんの姿が」


 さっきまで横にいたのに一体どこに。


「うひょおおおおおお! これが父の言っていたドラゴニュートが書いたかもしれないという古代文字ですな!? やっぱり生で見るとの書き写しで見るのとは違うですな!」


 エフゴロさんがめちゃくちゃ興奮して、壁に書いてある古代文字を複写機で写しまくっている。

 と言うか、文字なんだからどう見ようが何も変わらないでしょ何が違うのやら。


「おい、複写機は魔晶石の魔力で写しているんだろ? その文字だけで魔力を全部使い切るつもりかよ」


「ハッ! そうですな。……あぶないあぶない」


 止めなかったら、この時点で魔力が切れて帰る羽目になっていたかも。

 こんな入り口で街に帰るだなんて馬鹿らしすぎる。


「ゴホン、これは失礼しましたですな。ではコレット氏、案内を頼みますな」


 案内ってどこによ。


「え~と、案内って言われてもどこに向かえばいいんでしょうか?」


「そりゃ、レア・スケルトンが出る場所ですな!」


 そんな場所なんて知っているわけがないでしょ!

 それに仮に知っていたら、むしろそこを避けたいくらいよ!


「……あのですね。いつもスケルトンの方から出てくるんで、そんな場所は知らないです」


「それは困ったですな……」


 それはこっちの台詞ですな。

 そんなしょんぼりした顔をしないでほしい、すごい申し訳ない気分になってきた。


「こうしたらどうだ、今までコレットが探索した場所を回ってみるんだ。もしかしたら何か見つかるかもしれんし、それまでにスケルトンと遭遇するかもしれん。何せコレットがいれば、向こうから寄ってくるんだからな」


 そう言われると、私がスケルトンを呼ぶ体質みたいでなんか嫌だな。


「それですな! ではコレット氏、さっそく移動するですな!」


 すごく納得いかないとこがあるけど、仕方ないか。

 何せ調査協力依頼だしね、不本意だけど。


「……わかりました。では、私が最初にゾンビとスケルトンに襲われた場所に行きますか?」


「そこですな!」


 あの場所に行く事になるとは。


「あ、ストップ。前は俺が歩くからコレットは後ろから指示をしてくれ。昨日のバリスタみたいな罠が残っているかもしれないからな」


 そうだった。

 今日は漢方薬もないし、普通の鋼の胸当てだし、また黄金の剣が飛んで来たら絶対に助からないものね。

 ここはグレイさんに前を任せよう。


「じゃあ、お願いします。まずはこの通路を――」



「この辺りがゾンビに襲われた場所です。で、そこにスケルトンが乱入してきたんですよ」


 ついこの間の事なのに、昔のように感じるわね。


「ゾンビを襲うスケルトンの話は聞いているですな! なるほど、ここで起こったと……実に興味深いですな」


 エフゴロさんがあちこち触って調べだした。

 あの目、完全に自分の世界にいっちゃってるよ。


「ほんと、あの時は必死だったな~……って、あれ?」


 斬られたゾンビがいないし、バラバラになったスケルトンの骨もない。

 何でだろう? もしかして再生した? さすがにそれはないか。


「どうかしたか?」


「あ、いえ。あの時は怖かったな~って思いまして」


 どうせ他のモンスターに食べられたか、この前のスケルトン狩りの時に片付けられたんでしょ。

 こんな事をグレイさんに話しても仕方ないよね……ん? 床に何か刺さっている。


「よっ――これは冒険者のプレートだわ。誰か落としたのかな? え~と、名前は……」


「おお! 壁の向こうに部屋があるですな! 行ってみるですな!」


「馬鹿! それはまだ調査していない場所だから突っ込むな! コレット何している、追いかけるぞ!」


「え? あ、はい!」


 名前を見るのは後でもいいか、どうせギルドに届けるしね。

 これは袋に入れてっと……これでよし。

 一瞬だけ星が3個あるのが見えたから持ち主は三つ星級冒険者みたいだけど、この前のスケルトン狩りの時にでも落としたのかな?

 プレートを落としたのを気が付かないなんて、能天気な人に違いないわ。



「ぜぇーぜぇー。まったく、勝手に走り回るんじゃねぇよ」


「はぁ~はぁ~」


 本当よ、子供の頃の弟達を思い出したわ。


「いやはや、申し訳ないですな。ついつい」


 ついのわりにはしゃぎ過ぎでしょ、当の本人は息が上がっていないのもおかしいし。

 研究者ってこう体力が無いイメージしかなかったけど、この人……いや一族には当てはまらないわね。


「ふぅ……ん~」


「辺りを見渡してどうかした?」


「いえ……ちょっと……」


 タイミング的に、そろそろスケルトンが出てきそうなんだよね。

 ん~さすがに神経質になりすぎたかな。


『カタカタ! カタカタカタ! カタカタ!』


「っ! スケルトンだ!」


「うおー! とうとう出たですな!」


「……」


 何で的中しちゃうかな……。

 やっぱり私って、スケルトンを呼ぶ体質なの?


「……ん? おい、あのスケルトンの体って金色じゃないか?」


 あ、本当だ。自分の体質にショックを受けてちゃんと見てなかった。

 あのスケルトン、金色の体に金の胸当てを付けて、さらに金の剣まで持ってる!


「まさにゴールデン・スケルトン! これは初めての事例ですな! 興奮するですな!」


 レア・スケルトン種が多種多様すぎる。

 まさか金色が出てくるなんて思いもしなかった。


『カタカタ……』


 私達の言葉が分かるのかしら?

 ゴールデン・スケルトンって言われてしょげてる様に見えるんだけど。


『カタカタ!』


 でもないか、元気に歯を鳴らし出したし。


『カタカタカタ!』


 スケルトンが右手に持っていた金の剣を上げて、天を突くようなポーズをした。

 よく似たのを昨日みたけど……まさか、また罠を起動させる気なんじゃ!?


「ポーズしてくれるとは! 今ですな!」


 ――パシャ!!


『カタ! カタカタ!!』


 おお、複写機から発した光が閃光弾みたいになってスケルトンを怯ませた。


「うぎゃあああああああ!! 目がああああああ!!」


 へ!? 悲鳴?

 スケルトンは叫ぶわけないし、一体――。


 ――ボオオオン!!


「今度は何!?」


 いきなりスケルトンのいる辺りの天井が吹き飛んだ!


「また罠か! 2人とも伏せろ!」


 今度は爆発するタイプなの!?

 もう! 勘弁してよ!!

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