第110話 コレットの書~撮る物・4~

 ◇◆アース歴200年 6月21日・昼◇◆


 いや~まさかお金を預けられる施設があったとは……さすが街だわ、村とは大違い。


「これからお金は銀行へ持って行ってくださいね」


「はい、ありがとうございます!」


 宿のタンスにしまってあるお金も後で預けに行かなくちゃね。


≪うおおおおおおおおおお!≫


「なっなに!?」


 ギルドの中から、怒号が聞こえたけど。

 もしかして喧嘩かなにか!?


「何やら騒がしいですね、何かあったんでしょうか?」


 キャシーさんが冷静に中に入って行っちゃった。

 オタオタしていた自分が恥ずかしい。


「――騒がしかったのは、どうやらあの人だかりみたいですね」


 本当だ、人が集まっている。

 ん? あの辺りってグレイさんが座っている席の様な……。


「――お、コレット来たか。今日は遅かったな」


 人だかりの中心からグレイさんの頭が生えた。

 という事は、エフゴロさんとの話は終わったみたいね。


「はい、色々ありまして~すみません、ちょっと通して下さい~。――プハッ……あっエフゴロさん、こんちは」


 で、合ってるよね?

 ジゴロ所長さんだったらどうしよう。


「こんにちはですな、コレット氏。そして見てほしいですな! これを!」


 何も言わなかったって事は合ってたみたい、よかった。

 で、テーブルに指を指したけど……。


「これって絵ですよね」


 テーブルの上に人物や風景の絵が描かれた紙が何枚か置いてある。

 それにしてもうまいな~ここまで精密に描かれているのは見た事ないや。


「もしかしてエフゴロさんが描いたんですか? だとしたらすごいじゃないですか!」


 意外な才能ね。


「んー、そうであってそうじゃないんだが……言葉よりも実際に見た方が早いか。エフゴロ、見せてやりな」


「ですな。ジャーン!」


 出て来たのは長方形の箱?

 でもただの箱じゃなくて、真ん中辺りにと箱の上に加工した魔晶石がくっ付いてる。


「……何ですか、それ?」


 どう見ても普通の箱じゃないのは分かるけど、意味の方が分からない。


「コレット氏、そのまま立ってほしいですな」


「? はい、これでいいですか?」


 何が始まろうとしているんだろう。


「それじゃ、いくですな」


 いく? 一体何処に――。


 ――パシャ!


「キャッ! まぶしい!」


 何!? いきなり箱の上に付いていた魔晶石が光ったんだけど!

 もしかして、新しい閃光弾か何かなの?


「はっはは、驚かせて申し訳ないですな。よいしょ」


 もう、一体何なのよ!


「ちゃんと説明をして下さいよ!」


「まあ、ちょっと待ってろ。すぐにわかる」


 わかるって……あ、箱の中から紙が出て来た。


「よし、うまくいったみたいですな。どうぞですな」


「はあ……」


 出て来た紙を渡されたけど、これがどうし――。


「えっ!? これ私じゃないですか!」


 紙には立っている私が描かれている!

 一体どうやって今の瞬間で描いたんだろう。

 しかも、テーブルにある絵と同じようにかなり精密に……。


「さすがにびっくりしたようですな」


 しない方がおかしいでしょ。


「これは複写機と言いますな」


「クフシャキ……」


「そうですな! この複写機の中には特殊加工した魔晶石があり、外の魔晶石と連動して――」


 まずい、この流れはおしゃべりモードだ!


「ストップ! 訳の分からない所に訳の分からない仕組みを言っても混乱するだけだろ、俺も未だに仕組みについては理解できてねぇんだし」


「おっと、そうですな」


 助かった。

 このおしゃべりの血筋には本当に困ったもんね。


「簡単に説明しますとですな、このボタンを押した時に真ん中についている魔晶石が映していた風景を紙に複写する道具なのですな」


 へぇ~そんな道具が在るなんて知らな……あっ。


「もしかしてすごい物を作ったというのは、そのフクシャキの事だったんですか?」


「そう! そうですな! どうにかモンスターを絵や言葉ではなく鮮明な姿で残せないものかとずっと研究、開発していた物ですな。そして今日の朝、やっと完成させたわけですな!」


 その想いだけで、こんなすごい物を作り出すとは。

 ジゴロ所長さんといいエフゴロさんといい、一体どんな頭しているのよ。


「というわけで、今から白竜の遺跡に行くですな。ですからコレット氏も早く行く準備をするですな!」


「……はい?」


 早く準備をって、ちょっと待ってよ。


「何で私も行く事になっているんですか!?」


「コレット氏はここ数日、ドラゴニュート、ミスリルゴーレム、そして多種多様のレア・スケルトンと遭遇しているですな。つまりコレット氏が一緒に行けば高確率で遭遇出来るというわけですな!」


 いやいや、遭遇したくて遭遇しているわけじゃないから!

 私はケビンさんを探したいだけなのに、何でか邪魔ばかり入ってきちゃってるだけだから!


「そんな事を急に言われても困ります! グレイさんからも何か言ってくださいよ!」


「あーすまないが俺は何も言えん。ギルドから直接依頼されていてな、これがコレットの分だ」


 依頼書には私指定で【エフゴロと調査協力依頼】って書かれていて、グレイさんの方は【エフゴロとコレットの護衛依頼】ってなっている。

 しかも依頼主はどっちもギルド長だし。


「……あのキャシーさん、私に拒否権はないんでしょうか?」


 お願い、どうか助け舟を――。


「残念ながら、よほどの事が無い限りギルド長の依頼は取り消せませんね……」


 ――見事に沈んでいった。


「こんなの横暴だぁああああああああ!!」



「いやー、どんなのが撮れるのか楽しみですな!」


 まさか、自分からレア・スケルトンに会うため遺跡に行く羽目になるなんて思いもしなかったわ。

 エフゴロさんには悪いけど、どうかレア・スケルトンに出会いませんように! 神様お願い致します!


「……ん? 急に大きな雲が出て来たな。ありゃ雷雲か、雷雨になる前に早く遺跡に向かおう」


「ですな、急ぐですな」


「……」


 神様、本当にお願いしますよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る