第106話 コレットの書~魔力の鎧・5~

 でも、さすがに漢方薬で戦争って大げさすぎの様な気がする。


「あの、治癒力が高いと言ってもたかが漢方薬ですよ? それで戦争って……それに治癒で言ったら治療石があるじゃないですか」


「そうだな、普通の漢方薬なら戦争なんて起こるわけがない。だがその漢方薬となると話は別だ」


 先生の声のトーンが真剣すぎる。

 どうやら冗談じゃないみたいね。


「まず治療石と比べると治癒力が異常に高すぎる点、そして怪我は治せても病気にまでは治せない」


 なるほど、とりあえずすごい物というのは分かった。


「あー……話を切って悪い、ちょい気になったんだが……何で治療石の事を知っているんだ? あれはギルドとジゴロの爺さんとの開発のはずで出回っていないはずなんだが」


 あ、そう言えばそんなこと言ってたっけ。

 あの時ほとんどジゴロ所長さんの話を聞いてなかったんだよね。


「それは私も治療石の開発に関わっているからな、ギルドから依頼されたんだよ。このリリクスの医師がほとんどいたし、わざわざ他の町にいる専門医まで呼んでいたぞ」


 あの石を作るだけでそこまで……。

 ギルドって大きな組織だとは知っていたけどそこまで影響力があったんだ。


「そうだったのか、納得したぜ」


「では、話を戻そう。治療石はまだ実用性はない上にその漢方薬よりも性能は下。なら当然、漢方薬の方がいいだろ? それに漢方薬は調合の方法がわかれば量産が可能だ」


 確かに、どっちを取るって聞かれたら漢方薬を選んじゃう。

 でも、別に問題はない気がする。むしろ広まった方がよくない?


「えと、大量生産できるならみんなに行き渡って暮らしが便利になると思うんですが……」


 特に私たち冒険者にとってかなりありがたい物。

 まあ、お医者様からしたら別の意味で大問題だけど。


「確かに俺らに回ってきたらな……だが、その調合を大きな国が知ったらどうなる? その国の兵士達が怪我や病気になってもすぐに治る、まさに無敵の軍隊が出来るわけだ」


 確かに無敵の軍団が出来ちゃうわね。


「そして現状、その調合方法を知っているのはその神父様のみ……そんな漢方薬の話を各国が知ったらどうなる?」


 どうなるって……。


「キャシーさんみたいに神父様に漢方薬の事を聞きに行くかと」


「「……はあ」」


 あれ、何で2人してため息を?


「俺がならこう考える、『その漢方薬さえあれば自分たちの国が戦力として一番になる、独占する為には他の国より先に神父をひっ捕らえて調合の方法を吐かせるんだ!』ってな。それを各国が思うと?」


「その考えを各国がですか? ……あっ!!」


 欲望を出した国同士がぶつかると必ず争いになる。

 という事は、神父様の取り合いで本当に戦争が起きちゃうじゃない!!


「それに国同士の話ってわけでもない、ギルドも危険だ」


 ギルドも!?


「現状、ギルドが漢方薬の情報を握っている。それを知った国が、ギルドは国を脅かす力を持っていて危険と判断した場合……」


「ギルドを潰そうと国が動く、ですか……?」


「そういう事だ……」


 神父様ってば神父のくせにとんでもない事をしでかしちゃってるよ。

 というか、趣味で作っている漢方薬で国と国、ギルドと国が争いになるってシャレにならないし!


「おまけを言えば、俺が情報を国に持っていけば大儲けできるだろうな」


「ちょっ!?」


 そんな事をしたら戦争に!!


「いや、そんな顔をするなよ。冗談だ」


「言っていい事と悪い事がありますよ!」


 本当に冗談でしょうね。


「まあ、グレイの様な考えを持つ奴がギルドから出てもおかしくはないか……そうならないよう私が今からギルドに行って説明してくるしかないな」


 おお、表には出ない陰の功労者ってやつね。


「そうだ、コレットさんに確認したい事があるんだが」


「なんですか? お役に立てるのなら何でも聞いてください」


 私も力になれるのなら何でも話しますよ。


「漢方薬はまだ残っているのか?」


「あ、はい。あと少しですが残っています」


 聖水の小瓶に入れたら2~3本ってところかな。


「だとしたら、ここぞという時以外は飲まない様に。漢方薬の中身が魔力を持つ何かを入れてあるのは間違いない、今は軽度だが次は中毒死を起こすかもしれんしな」


 病気や怪我を治す為に飲むのにそれで中毒死ってどうなのよ。


「そもそも、普通魔力は自然に体の中に入る物じゃない……その漢方薬は魔力を持った何かを素材としているからかすごく気になるところだな」


「そうなんですか。あの、その魔力の物って何があるんですか? コアは知っていますけど……」


 私も漢方薬の素材が気になる。


「そうだな、代表的なのは……」


 やっぱり魔力を持つ野草的なものがあるのかな。


「魔晶石……」


 いや、魔力が体に入る云々以前に石はないでしょ。

 漢方薬の素材としておかしいじゃない。


「魔石……」


 それも石だし!


「魔樹……」


 ……は大丈夫、魔樹といっても植物だもの。

 それに、木の根っこを煎じて飲むって聞いたことあるし。


「後は、ニジイロコウモリといった体内に魔力を蓄積させている動物や虫……それくらいか」


 動物……?

 虫……?


「え~と……それらのどれかが漢方薬の中に?」


「考えられるのはそのくらいだ」


 だったら魔樹でありますように、魔樹でありますように、魔樹でありますように!!

 それ以外はシャレにならないよ! 特に虫何て論外すぎる!


「ただ魔晶石、魔石、魔樹、動物類は蓄積魔力が強すぎるから、おそらくまだ魔力量が少ないム――」


「いやああああああああああああああ!!」


 それ以上聞きたくないし、想像もしたくない!

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