11章 二人の撮る物と輝く者

第107話 コレットの書~撮る物・1~

 ◇◆アース歴200年 6月21日・朝◇◆


「ふわぁ~……」


 昨日は魔力が抜けてから元気になって、宿屋へ戻ったのよかったものの……。

 漢方薬の中身を意識しすぎたせいか、ロープでグルグル巻きにされて動けない所をよくわからない虫を無理やり食べさられそうな夢を見ちゃった。


「はぁ……今まで見た悪夢のなかで最低最悪だったわね、おかげでまたよく眠れなかったよ……おっとと、さっきの路地を曲がらなきゃいけなかった」


 へこんでしまった魔力の鎧の修理費を得る為に、この曲がった黄金の剣を買い取ってくれるお店に売りに行かないといけないんだけど……まさかこんな朝でも薄暗い路地裏に来る羽目になるだなんて思いもしなかった。

 まだグレイさんと一緒ならよかったんだけど、今日は朝からギルドに呼び出されていたみたいだからグレイさんが信頼しているというお店の地図を渡されて私一人で向かう羽目に……。

 まあ、グレイさんが『コレットが死にかけて手に入れたものだから、全額お前にやるよ』って言ってくれたし文句は言えないか。


「……あ、ここがグレイさんが言っていたお店か」


 まるで隠れるように街の奥にあるお店ね。

 それにしても、入り口前に並んでいるこの変な形のお面や変なポーズの銅像は何なのかしら? 商品っぽいけど……なんだかジゴロ所長さんの建物並に外観だけで怪しい臭いがする。


「いや、グレイさんが来ているお店だし外観だけで判断しちゃだめだよね。――すみませ~ん」


「あらぁん? いらっしゃーい! こんな可愛いお嬢ちゃんがわたしのお店に入って来るなんて思いもしなかったわぁ!」


 グレイさん、本当にここは信頼できるのですか!?

 おかっぱ頭にちょび髭、すごく独特な口調の男の人がクネクネと腰を左右に振りながらこっちに来たんですけど!!


「どうかしましたかぁ?」


「いっいえ……」


 ジゴロ所長さんとは別の意味で怖い。

 あっそうだ、店主に手紙を渡せって言われてたんだった。


「あ、あの、店主さんにこの手紙を……」


「わたしにぃ? 誰からかしらぁ? あ、そこの椅子に座っててちょぉだい。おいしい紅茶を持って来るわぁ」


 あんたが店主かい!!



「――なるほどねぇ、グレイちゃんの紹介で来たのねぇ」


 グレイ【ちゃん】!?

 もうカオスすぎて頭がついていかない……紅茶でも頂いて冷静になろう。


「はい……そうです。――ズズ」


 この紅茶、普通においしい。


「おっとぉ自己紹介がまだだったわねぇ、わたしはこの店の店主で鑑定士のカルロス・レガイタスっていうの。今後ともよろしくねぇ……えぇと……」


「あっ、私はコレットです。よろしくお願いします、カルロスさん」


 カルロス……ねぇ。

 名前と姿言動があってない気がするのは私だけだろうか?


「カルちゃんって呼んでちょうだい。それでぇこの手紙に書いてある黄金の剣はどんなのかしらぁ? すごく気になるのぉ」


「えと、ちょっと待ってください。――よいしょっと、これです」


「きゃっ本当に黄金の剣だわぁ! お預かりするわねぇって、こんな重い物をコレットちゃんに運ばしていたのぉ!? まったくグレイちゃんったら女の子にこんな重い物を持たせちゃ駄目じゃない! 本当にそういう所は気が利かないんだから!」


「あはは、そうですね……」


 カルロスさんが片手で持ち上げちゃった。

 この人、細身なのにどこにそんな力があるんだか。


「今度グレイちゃんが来た時に叱っておいてあげるわぁ。――それじゃ鑑定させて貰うよ……」


 ――っ!

 カルロスさんの目つきが変わった!?


「……重量、質感、うん、これは間違いなく純金だな。そしてこの作りや装飾を見る限り約300年ほど前の物か……だとすると惜しいな、こんな状態ではなければ歴史的価値があったのに――」


 ……私の目の前にいるのは誰だろう。

 カルロスさんって実は双子で、一瞬で入れ替わったのかな?


「――そうなると……」


 紙に数字を書き出した。

 買取金額を書いているのかしら。


「わたしの鑑定だとこのくらいになるわねぇ、いかがかしらぁ?」


 元のカルちゃんに戻った……っとそんな事より金額が大事、少しでも修理費の足しになればいいけど。

 どれどれ、17の後に0の数が1、2、3、4、5……へ? 0の数が5個? いやいや、そんなわけないよね。

 もう一度1、2、3、4、5……やっぱり0の数が5個ある、という事はつまり黄金の剣の買取価格は1.700.000ゴールド!?


「……………………」


「この剣が真っすぐでぇ傷が無かったらもっといってたんだけどねぇ、うちではこれが限界価格よぉ」


「……………………」


「あらん? コレットちゃん、どうしたのぉ? 目を真ん丸にして固まっちゃってるけど。もしもぉーし」


「……ハッ! すっすみません!」


 すさまじい値段を見たせいで、意識が飛んで行っちゃってたよ。

 純金が高いのは知っていたけど、まさか170万も行くだなんて思いもしなかった……コアよりも価値があったんだ。


「言っておくけど、この金額はちゃんと鑑定して出した金額よ。損も得も一切考えていないからそこは信じてちょうだい」


 すごい澄んだ瞳で私を見てる、鑑定士として誇りをすごく大事にしている感じが伝わってくるわ。

 うん、グレイさんがカルロスさんを信頼しているし鑑定が妥当と思っても大丈夫そうね。

 ただ……それ以外は怪しすぎて残念だけど。


「わかりました、その金額でお願いします」


「まいどぉー!」


 それにしても、曲がっててこの金額か……。

 じゃあ曲がっていなかったらいくらだったんだろう。


「あの、私の興味本位で聞きたい事があるんですけど……」


「ひぃふぅみぃー……何かしらぁ?」


「もし、この剣は曲がっていなくて傷が無かったらいくらだったんですか?」


 プラス50万くらいかな?

 なんちゃって、さすがにそれは盛りすぎ――。


「その剣は歴史的に価値があるからぁー300万はいったわねぇ」


「さっ!!」


 何で300万もする歴史的に価値がある剣が私に飛んで来るのよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る