10章 二人の黄金の剣と魔力の鎧

第97話 ケビンの書~黄金の剣・1~

 ◇◆アース歴200年 6月20日・朝◇◆


『……51185……51186……51187……5118……あれ? あの葉っぱはもう数えたっけ? ……ああ、わからん! はぁ……また1からか』


「くか~すぴ~……」


『ぐぬぬぬ……』


 くそ、後ろから聞こえるナシャータの気持ち良さそな寝息に腹が立つ。

 昨日帰って来て「薬は小娘に届いているはずじゃから」と言ってそのまま眠りやがって。

 気になって問いただそうと起こしたら怒って魔法をぶっ放されるし、仕方がないからナシャータが自然と起きるまで待つ羽目になってしまった。

 その間は気を紛らわせるのと、暇潰しをかねて【母】マザーの葉っぱが何枚なのか数えていたが……。


『……さすがに、色々と限界が来ているぞ……』


 このままじゃ精神的に良くない。

 いつになったら朝が――。


「……んん…………ん~……」


 お、起きた気配がした。

 やれやれ、やっとか。


『おい、ナシャ……』


「……ふわ~……」


『……』


 振り返るとボロマントを羽織った群青色の長髪の奴が背伸びしている。

 起きたのはナシャータじゃなくて、横で寝ていたポチかよ、紛らわしい。

 まぁポチが起きたという事は、ようやく朝にはなったって事か……すごく長く感じた夜だったな。


「……ん……あれ、ごしゅじんさまは……まだねているの?」


「くか~」


『……ああ』


 そのご主人様の起きる気配はなしか。

 とはいえ、もうじき起きるだろうから朝菓子を作らないといけないな。

 本当にあの取引が成立しているのかすごく、すごーーく! 疑問なんだが、作らなかったら作らなかったでいつもの如く消し炭にされそうだし、結局作るしかない。


『……理不尽にもほどがあるだろ、これ』


「?」


「すぴ~」



「くか~……クンクン……んがっ! いい匂いがするのじゃ!!」


 この菓子の焼く匂いで起きた。

 しまったな、最初からそうすればよかったのか。


『もうじき焼けるからちょっと待って。で、その間に昨日の事について話してくれ』


「昨日の事? じゃから戻った時に言ったじゃろ」


 いやいや、あれでわかったら苦労はしねぇよ。


『あの一言でわかるわけねぇだろ! ちゃんと最初から話すんだよ!』


「あ~相変わらずうっさい奴なのじゃな……わかったのじゃ、昨日あった事を話せばいいんじゃろ? え~とじゃな――」



「――と言うわけなのじゃ」


『……』


 なんて事だ……。

 ナシャータにそんな事が起きていたなんて。


「どうしたのじゃ?」


 しかも、よりもよって……。


『……何で……』


「ケビン?」


『何でよりもよって、コレットにくっ付いている親父に渡していんだよ! あの親父が「さあ、コレット。この薬を飲むんだ」、「……私……ベッドから起き上がれなくて……飲めそうにないです」、「ふっ仕方のない奴だな……なら俺が口移しをしてやるよ」、「……そんな……おじ様……恥ずかしいです……」、「そんな事は気にするな俺に身を預けるんだ……」、「ああ……おじ様……」ってムチューな展開になってらどうするんだ!? くそっ想像しただけで頭に血が上りそうだ!』


 コレットが弱っている所につけ込むなんて、あの親父め!!


「その体でどうやって血が頭に上るのじゃ。冷静になるのじゃ……いくらなんでも考えすぎじゃぞ、それは」


『いいや! 男ってのは外面はよくても中身は狼なんだぞ! ああ、コレット! 俺が街に行けてれば!』


 こうしちゃいられない、今からでも行けば間に合うか!?


「エサのひがいもうそうがすごいですね」


「じゃな……【母】マザーの魔力でおかしくなると思っておったが、どうも魔力と小娘への想いも絡んでより暴走しているみたいじゃ。どの道はた迷惑じゃし、仕方がないのじゃ……またあれをするしかなさそうじゃ」


『よし、今から俺は――』


「エアーショット!!」



「どうじゃ、落ち着いたか?」


『……はい』


 またバラバラにされて、宝箱に詰められて、上の瓦礫の間に連れて来られた。


「ならいいのじゃが……本来なら再生するまで放置するのじゃが……」


『ちょっ!』


 それだと、まともに動ける様になるのに半日はかかってしまうぞ。

 もしその間に元気になったコレットが来たら会えないじゃないか、それは嫌だ!


「しかし、そうなると時間が掛かって昼菓子が食べられなくなってしまうのじゃ。じゃから今回だけ特別にわしの魔力を送って再生してやるのじゃ」


 そんな事が出来るのか! 菓子万歳!

 ジゴロの爺さんの先祖に万歳!


「まったく、朝っぱらから魔力を消費させられるとは思いもしなかったのじゃ……ふん!」


 すごい、みるみる俺の骨がくっ付いていく。


「はぁ……はぁ……どうじゃ?」


『おっ終わったのか。――よいしょ』


 まずは普通に立てるな。


『よっ、ほっ』


 首も腰も腕も動かせる。


『動けるって素晴らしい! てか、再生出来るならもっと早くしてくれよ』


 今まで何回もバラバラになっては無駄に時間を潰していたのに。


「――っ! じゃから、はぁ……はぁ……今回は特別と、言ったじゃろ! はぁ……はぁ……魔力の消費は、疲れるんじゃ!」


 あのナシャータが息を上がっているし、汗もかいている。

 それほど疲れるのか……なるほど、今までしなかったわけだ。


『……そこまでしてあの菓子が食いたいのかよ……ん?』


 何だ、俺を入れていた宝箱に端に何か入っている。

 他事に意識がいっていたから、気が付かなかった。

 ……これは皮の鎧?


『……おい、これってまさか?』


「ふぁ……なんじゃまだ何か……ああ、そういえばそやつを入れておったの忘れていたのじゃ」


 やっぱり俺の体を乗っ取った鎧か!


『何で入れているんだ! てっきり捨てたと思っていたぞ!』


「一応、そやつも生きておる、それは可哀想なのじゃ」


 俺は恨みがあるから別にそうは思わん……。

 騒ぎ出す前にさっさと仕舞ってしまおう。


『……ん? こいつ静かだな』


 着けた時はめちゃくちゃ喋っていたのに。


「そりゃそうじゃ。そやつは生命力と魔力消費量を抑える為に休眠しているのじゃからな」


 あーそういえば俺が着けた時に生命力とか魔力とか言っていたな。


『こいつを見つけた時は、この体を守れるいい案だと思ったんだがな……』


 守るどころか色んな意味で危険な目に合ったわ。

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