09章・番外編 ある二人の6月19日

第95話 ナシャータの6月19日

 ◇◆アース歴200年 6月19日・昼◇◆


「ほえ~これが200年後の人間の街か、色々と随分と変わってしまったものじゃな……」


 にしても、羽を小さくしてしまったから飛べずに歩く羽目になってしまったのじゃ。

 元に戻しても良かったんじゃが、それじゃとまた小さくするのに魔力を使ってしまう……そんな事をすれば疲れるとそのままにしたのが間違いじゃった、歩きは歩きで疲れたのじゃ……。


「よし、さっさとこれを小娘に渡して……って、あれ?」


 そう言えば、小娘はこの街の何処にいるのじゃ?


「……」


 菓子しか頭になくてそこの所を考えてなかったのじゃ!


「わしの馬鹿者が……」


《ガヤガヤ、ワイワイ》


 む? あそこは随分と人間が集まっているの。


「……そうじゃ! 聞き込みをすればいいのじゃ、あれだけ人間がおれば小娘の事もわかるはずじゃ!」


 そうと決まればさっそく行ってみるのじゃ。



「いらっしゃーい! いらっしゃーい!」


「この剣は不死のモンスターを簡単に斬れる一品だ! 今なら安くしとくぜ!」


 ふむ……物売り場は昔とそう変わらんのじゃな。

 さて、小娘の事を……む? 何やら美味そうな匂いがするのじゃ。


「あふ~これは美味そうな物なのじゃ……」


 棒に肉を刺して焼いているのじゃ。

 これは何の肉じゃろ。


「お、お譲ちゃん。串焼きを食って行くかい?」


 ……ん? お譲ちゃん? それってわしの事か?

 わしは、お前より遥かに年上じゃぞ!!


「わしはじゃな――ッ!」


 いかんいかん、こんな事を言っても仕方がないのじゃ。

 それよりも聞き込みなのじゃ。


「あ~いや、今はいいのじゃ。わしは人を探しているのじゃ」


「人? もしかして両親かい?」


「違うのじゃ! コレットという女じゃ」


「コレット……?」


 この感じじゃと、こやつは知らなさそうじゃな。


「……コレットって、冒険者やっているコレットの事か?」


 後ろから声?

 どうやら、知っている奴がおったようじゃ。


「そうじゃ、冒険者の……――っ!?」


 げっ! こいつ、小娘と一緒にいたゴツイ男なのじゃ! 何故ここにいるのじゃ!?

 まずい……フードでもっと顔を隠さねば。


「どうした、何を驚いている」


 こっちに来た。

 これ以上近付かれると、バレてしまうのじゃ。


「だっははは、そりゃグレイさんの顔を急に見れば驚きますって!」


「おい、そりゃどういう意味だよ!」


 目を逸らした、今のうちに逃げるのじゃ。


「――っと、待ちな」


 あ! バッグを掴まれたのじゃ!


「おい、そのバッグの中に入っているビンの中身は何だ?」


「これか? これは万能薬じゃが……」


「万能薬?」


「あっ!」


 わしの馬鹿! 何、正直に話しているのじゃ!

 うわ~あの目、わしを疑っているのじゃ。


「もしかして、お前さん……」


 っバレてしまったか!

 こんな大勢の中で危険じゃが、消去魔法を――。


「コレットの妹のマリーちゃんか?」


「へっ?」


 わしが小娘の妹じゃと!?


「コレットが忘れた漢方薬を持って来たんだろ」


 はあ? 漢方薬?

 こいつは何を勘違いして……待てよ、それじゃ!


「そ、そう……です! これは漢方薬でわ……たしはマリーです!」


 その勘違いに乗って、ここをやり過ごすのじゃ。

 言葉遣いも気を付けないと。


「やっぱりな。俺はコレットの仲間のグレイって言うんだ」


 知っておる、じゃから小娘の場所を聞き出してやるのじゃ。


「そっそうでしたか。わ……たし、姉のいる場所を知らないくて、それで聞いていたの……です」


 言い慣れない言葉は言いにくいのじゃ。


「なるほど……実は、今コレットは風邪をひいてしまってな……」


 それを治す為の、この万能薬を持って来たのじゃな。

 ん? なんじゃこやつ、不思議そうな顔をしているが……。


「あっ、ソッソウダッタンデスカー! イヤーシンパイダナー!」


 しまったのじゃ……ここは知らないフリをしなければならなかったのじゃ。


「今は落ち着いているから安心してくれ。でだ、俺も顔を出す予定だから一緒に行こう」


 一緒なのはまずいのじゃ。

 ここは1人で行く様に言わないと。


「え~と、それはありがたい――」


「それと行く途中にある、果物屋で見舞いを買おうか。金は俺が出すから」


「――ので行きましょうか!」



「おいしいのじゃ~」


「そ、そうか……そりゃ良かった」


 この果物、昔よりも甘くなっている気がするのじゃ。


「マリーちゃん、その独特な言葉使いは……」


 ギクッ!


「あっこれはその……普段は気を付けているんですけど、気が抜けると……方言! そう、方言が出てしまうんです!」


「コレットから、聞いた事ないんだが……」


 そんなにつっこまんでほしいのじゃ!


「え~とそれはつまり~姉はめちゃくちゃ練習をしたんです! それはもう喉がかれるくらいに!」


「コレットの奴、そんな事をしていたのか」


 何とか誤魔化せたか? しかし、このままじゃといつボロが出るかわからんのじゃ。

 早く場所を……ん? ――この臭いは、もしかして……。


「あ、先輩じゃないっスか」


「何だ、お前か」


 やっぱり悪臭男!

 こいつとは会いたくはなかっ――。


「――っ!?」


 な、何じゃ!? 急に背中とお尻が痒くなって……まさか羽と尻尾が戻り始めているか?

 何故じゃ!?


「おい、どうした!?」


 それはこっちが聞きたいのじゃ。

 とにかく、早くここから逃げないとまずいのじゃ。


「い、いえ何も! ……そうだ! わたし急用を思い出したので、急いで帰らないと!」


「いや、でも具合が悪そうに見えるが……」


 いらん心配じゃ!

 ええい、バッグをこいつに渡してしまうのじゃ!


「わしは大丈夫です! すみませんが、これを姉に渡してくださいなのじゃ!」


「えっ!? ちょっマリーちゃん!」


「では、頼んだのじゃ!」


 全力疾走で街の外に行くのじゃ!!



「ぜぇ~ぜぇ~……ここまで来れば……大丈夫じゃろ……」


 しかし、何故急に元に戻りはじめたのじゃ?

 あの臭いのせいか? いや、さすがに臭いだけでそんな事が……?


「……まぁいいか、目的は薬じゃし」


 あの男に薬を渡しておけば大丈夫じゃろうから帰るとするか。

 今日は色々ありすぎて疲れたのじゃ……。

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