第56話 ケビンの書~びっくり箱・9~

 ふぅ、魔晶石の間に着いた、やはりこの体で走るのは大変だな。

 本当ならこの隠し階段の入り口は閉じておかないといけないが、それだとコレットが降りて来られないからこのままにしておかないと。


『さて後は、宝箱に俺が入ってコレットを待っ――』


 ――ズン!


『――っあぶね!』


 危うくミスリルゴーレムに踏まれるところだっ……。


『……ミスリルゴーレム? ……ハッ、しまった!! いるかナシャータ!? ナシャータさあああん!!』


 これはまずい事に気が付いた。


「なんじゃ、お前の言う通りに隠れておったのに呼び出すとは何事じゃ」


 良かった、文字通りすぐ飛んできてくれた。


『あのミスリルゴーレムってコレットが来た場合どうなる!?』


「どうなるって……そんなの侵入者とみなして襲うに決まっておるのじゃ、その為に守護をしておるのじゃぞ」


『やっぱりそうだよなぁああああ!!』


 ミスリルゴーレムが襲ってくるんじゃ、宝箱なんか構っている暇なんてないじゃないか!


『どうにかミスリルゴーレムを止める事は出来ないか!?』


「はあ!? いきなり何を言うんじゃ!」


『そうしないと襲われて、コレットが宝箱を開けられないじゃないか!』


 ミスリルゴーレム如きで俺の計画が潰されてしまうなんて!!


「あ~そういう事か……コアを抜けば止まるが……わしは直せないから全てのミスリルゴーレムがずっと止まったままなのは、さすがに困るのじゃが」


 こっちも困る!


『そこを何とか!!』


「う~ん……これは疲れるからやりたくなかったのじゃが……仕方ないのじゃ、ケビンこれは貸しじゃぞ」


 でかい貸しになりそうだな。

 まぁいい、あの邪魔なミスリルゴーレムさえどうにかなればな。


『さすがナシャータ様!! で、どうするんだ? もう時間がないぞ?』


「大丈夫じゃすぐ終わる!! フン!!」


 ――ズシーン!

 ――ズシーン!


『なっ!?』


 次から次へとミスリゴーレムが倒れていく!

 これはどういう事だ?


「ふぃ~」


『ナシャータ、一体何をしたんだ?』


「コアの部分に結界を張って魔力供給を切ったのじゃ。じゃからまた結界をとけば魔力が供給され動くはずなのじゃ。これはコアを狙った場所に出さねばならぬからな、神経を集中させるから疲れるのじゃよ……」


 そんな事が出来たのか。


『そうだったのか。すまん、助かっ――』


《ちょっ――!! ――っお――! 邪――だ!!》

《――? ――うぎゃっ!!》

《マー――ん!?》


 むっ! 今階段の上から声が聞こえた!


『今声が聞こえた、きっとコレット達がこの上まで来たんだ!」


 俺とナシャータが見つかっては意味が無い!


『ナシャータ! 今から俺は宝箱に入るから蓋を締めた後、すぐ隠れるんだぞ!』


「はいはい、まったくケビンが呼んだのじゃろうが。――ほれ閉めるぞ」


 ――バタン


「これでよしなのじゃ。さてわしも隠れるとするのじゃ」



 ああ、すごい心臓がドキドキしている……気がする。


《……………………え? なっ!?》


 お、どうやら来たみたいだな。


《……っと――い声を出――ち――た》


 うーむ、宝箱に入っているせいで大声は聞き取れたが、普通に喋ってる所は聞き辛いな。

 少し隙間を空けて……よっ……あれ?


『ん! 開かない?』


 何でだ? ……もしかしてナシャータの奴、何かやらかしたのか!?


《う~――~!! す――い!!》


 あ、これはコレットの声だな。

 恐らく魔晶石の間を見て感動しているんだろうが……くそっ! 喜んでいるコレットをすごく見たいのに見れないのが悲しすぎる!


《うそ――ろ……――全部、魔晶――スか!?》

《た――な。後、あれ――見ろ》


 あれって、この宝箱の事かな?

 ……今更だが開けるのはコレットって限らないよな……というか四つ星の親父が開ける可能性が高いじゃねぇか!! それじゃサプライズの意味がねぇし! 

 その場合どうするか……よし! その時は屍のふりをしよう!


《大丈夫――てコレット、武器をし――》


 え? 武器? なんで?


《え、でも! ……あれ? ……――、あれは――ですか?》

《ミス――ゴーレ――。恐ら――この守護を――たん――うが、どう――訳か――停止している――だ。さっ――俺の声に――応しな――しな》


 ああ、そっちか。

 俺が止めないと襲われる所だったんだからな、まぁやったのはナシャータだが。


《……う――、見た――ここ――魔樹――ないな。羅針――魔樹じゃなくて、この魔――の部屋を指して――か……って、あっしまった! やっちまった!》

《どうし――です……うわ、――盤の針がグル――回っちゃっ――》

《こ――一面は魔力――われている――な、そ――いで――盤の反――がおか――ったみたいだ。あ――、2日連――羅針盤が壊れ――てつい――ぇな》


 断片的に聞こえてくるのをまとめると、予想通り羅針盤がいかれたみたいだな。

 それに、【母】マザーも気付かれていないみたいだ。


《すご――ス! これ――い土産話が――たっ――! ――本に魔晶石――来て――ス!》

《えと、こ――探索ってす――ですか?》

《あ――そり――……まず――》


 まずは辺りの探索から始めるみたいだな。

 果たしてこの宝箱、誰があけ――。


《ちょっと! 2人ともここに宝箱があるっスよ! この魔晶石の部屋、そしてミスリルゴーレムの守護者! これは絶対お宝が眠っているスよね!? 早く開けましょうっス!》


 げっ! よりもよって臭い奴が宝箱に反応しやがった!

 しかも声が聞こえてるし、宝箱を叩いてるし、これ宝箱の横にいるよな!?

 くっ屍のフリをするしかないか……。


《勝――触るな! ――馬鹿が!! ――フン!!》

《――ハグア!!》


 なっなんだ?

 外で一体何が起こっているんだ?


《ああ! やっ――私の――イスが――クさんの頭――る! もう――さん! ――物を勝――投げな――下さいよ!》

《あー……すまん――ん。とっさに――付いた――そのメイ――ったも――……》


 親父があの臭い男に向かって、コレットの持っていたメイスを投げたみたいだな。

 よかった、とりあえず現状は助かったみたいだ。

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