第55話 ケビンの書~びっくり箱・8~

 ◇◆アース歴200年 6月16日・朝◇◆


『これでよし』


 俺が入る為の宝箱は魔晶石の間の中心にある大柱の前に置いた、これなら目立つからすぐ分かるだろう。


『後は……ナシャータに確認したい事があるんだ』


「む? なんじゃ?」


『コレットと遭遇した所にはあれから行ったか? それとポチを連れて来るまでに何かしたか?』


「いや、まったくあの場所には行ってないのじゃ。ポチも変化させて、そのまま魔晶石の間に連れて来たから何処にもよっておらんのじゃ。それがどうしたのじゃ?」


『なら大丈夫そうだな』


「じゃから何の話なのじゃ」


 四つ星の親父はあの場所をシャータの巣かどうかを調べるだろう、もしナシャータが今でも行っていたのなら何かしらの細工をしないといけなかったが……あれから行ってないのなら問題はないだろう。

 魔樹も魔晶石の間で勘違いしてくれればこの遺跡には巣もない、魔樹もない、と報告してくれるはず。


『いや、気にするな。それじゃ俺は入り口付近で見張っているから、ナシャータは大人しく待機していてくれ』


「そう言われると逆に気になるのじゃが……まぁ良いのじゃ。しかし待機とはまた暇な話じゃな」


『今後の為なんだ、我慢しろ』


 主に俺の今後の為だがな。


「はいはい、わかったのじゃ。ポチ行くのじゃ」


「はい、ごしゅじんさま!」


 うーむ、あの2人だけで本当に大丈夫なんだろうか。




 ◇◆アース歴200年 6月16日・昼◇◆


 入り口に来てから結構時間たったな、太陽も遺跡の真上辺りか。

 未だに来な――。


「おい、コレット。もういちいち入り口を確認しなくていいぞ」


『ん!?』


 今コレットって聞こえた!?


「あ、そうでした……」


 コレットの声だぁあああああああ!!

 よかった、来てくれた! ああ、やっぱりかわいいなコレットは……。


「んー羅針盤は……今のところ動きはないな。この近くにドラゴニュートは居ないみたいだ」


「それはよかったっスね、コレットさん」


 邪魔なのもいるが……。

 まぁいい、あの一つ星はともかく四つ星の親父は来てくれないと困るからな。


「そうです、ね……」


 ん? 心なしかコレットが元気ないような……。

 どこか具合でも悪いのだろうか、だとしたらあの親父め無理やりコレットを連れて来たんじゃないだろうな!?

 しかし、俺はここでコレットを見守る事しか出来ない! 今後のサプライズにならないからな……許してくれ!


「じゃあ今のうちに進みましょう! ね?」


 今度は何か焦ってる感じがする、今日のコレットはどうしたんだろうか。


「そうだな……じゃあ昨日の所まで行くぞ、今は反応がないとはいえ注意を怠らないように」


「うっス」


「はい!」


 3人が遺跡の奥へと歩き出した。

 後は、近すぎず遠すぎずの距離で付いて行って状況判断をするだけだ。



 この辺りは昨日、コレットがナシャータに飛ばされた辺りだな。

 さすがに警戒しているのかコレットが前後左右に顔を振って辺りを確認している……。


「ふむ、羅針盤の針は昨日と同じ右下を指しているな。ただ……反応の方が違って右下の1つのみだ」


 昨日と同じ、か。

 やっぱり【母】マザーの、いやコレット達からしたら魔樹か、存在に気付かれていたか。

 反応が1つって言っていたからナシャータはちゃんと【母】マザーの所にいるみたいだな、良かった。


「どうしますか? ドラゴニュートがいた場所に向かいます? それとも魔樹の確認をします?」


 おっと、これは大事な事だ、それ次第で次の行動に関わるからな。


「うーん……羅針盤を見る限りドラゴニュートはこの先に居ないみたいだし……よし、先にコレットがドラゴニュートとであった場所に行こう」


 魔晶石の間が後みたいだな、ならこのまま尾行を続行だ。



「ここか」


 俺がナシャータの邪魔をしてしまった場所。


「……はい、ここであの実を食べていました」


「へぇーあの実をっスか……あんまりうまそうじゃないっスね」


「実際うまくねぇぞ」


 人が食っても、やっぱり不味い物は不味いか。

 ……というかあの親父はあの実を食ってたのかよ!! よく中毒にならなかったな。


「ちょっ、その実を食べた事あるんですか!?」


「そりゃそうだ。いついかなる時に何が起こるかわからんからな、だから木の実があればそれが食べられるかどうかを確認しておくのは大事だ」


『「なるほど」』


 ……そんな事、考えたこともなかった。

 落とし穴に落ちた時、助かったとしても飢えで食べたのが毒でした何てしゃれにならんよな。

 悔しいがあの親父の言う事は正しいから覚えておこう、今の体では関係ないが。

 ただ……ナシャータがいなくて良かった、ポチが不味いって言った時の事を考えたら、今のを聞いて飛び出しかねなかったぞ。


「それじゃ俺はこの辺りを調べるから、お前達は辺りを警戒していてくれ」


「はい」


「うっス」


 お、四つ星の親父が調べだした。

 しかし残念ながらそこを調べても意味は無いんだよ。


「ふーむ……巣のような痕跡がないな。――ここに木の実を食べに来ていた所に、たまたまコレットと遭遇したって事か?」


 そりゃ巣がそこにあるわけない。

 なんたってこの遺跡自体が巣……いや、家なんだからな。


「それにここに来るまで注意深く見てきたが、どうもドラゴニュートがここに居座っている感じがなしないんだよな……」


「それはどう言う事ですか?」


「ここに居座るようなら自分の居心地の良い様に変えるだろ? だが、ここを含め道中も手を加えられた様な所はなかった。そして羅針盤の反応も今は一つのみ……」


 そりゃそうだ、ナシャータの行動範囲が物凄く限られていたからな。


「つまり、ここにもうドラゴニュートはいないって事っスか?」


「可能性はある、が確信は持てない――となると……次は魔樹の確認するぞ、もしかしたらそこに魔樹の場所にドラゴニュートがいるかもしれない。十分注意するんだ」


 よしよし、思ったように話が進んでいるみたいだ。

 これで魔晶石の間を見ればナシャータの存在も魔樹の存在もないと思うだろう。


「うっス! 魔樹かー俺見た事ないっスから楽しみだなー」


「あ、私もないです。どんな木なんでしょうね」


 すまんコレット、【母】マザーは見せられないんだ。

 ――っと何時までもここに隠れている場合じゃない、早く魔晶石の間に行ってコレットが来る前に宝箱の中に入っとかないと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る