第35話 間の書~ナシャータとグレイ~

 ~ナシャータ~


 さて、ケビンの位置は大丈夫じゃな。

 後はあの3人の前に行ってと――よっと。 


「え? うそっ? 何でここに……」


 小娘は恐怖の顔に歪んでおるの。


「ちっ、今はドラゴニュートとの接触は避けたかったんだがな!」


 親父は苦虫を噛んだ様な顔をしておるな。


「ほえーあれがドラゴニュートっスか。見た目は子供みたいっスね」


 くっさい男は飄々とした顔か、臭いといい、本当にいけすかない奴じゃ。

 まぁよい、用事があるのは小娘だけじゃからな。


「では小娘、お前だけ飛んで行ってもらうぞ」


 狙いはケビンの所じゃ!


「「「『え?』」」」


「エアーショット!!」


「うそおおおおおおおおおおおお!?」


「コレット!?」

「コレットさん!?」


 お~我ながら綺麗に飛ばせたのじゃ。

 そのまままっすぐケビンの元へ飛んでいくのじゃぞ~。


『――ダハッ!!』

「――グエッ!!」


 よし、計算通り小娘をケビンに届けられたのじゃ。

 後はわしの魔力を送って――。


 ――ガコン。


 扉を開いて――。


『――え? 壁が動いて……』

「――え? 今度は何なのおおおおお!?」


  ――バタン。


 そして閉める。

 うむ、我ながら完璧じゃな。


「コレット! ――くっドラゴニュート! 貴様一体何をした!?」


 あ~あの親父が剣を抜いてこっちに向けてきたのじゃ、相手をするのは面倒じゃし。

 あの扉はこいつらにどうこう出来るはずもないしここは――。


「悪いの、わしは無益な争いは好まぬし用事があるのは小娘だけなのじゃ。じゃあの!」


 逃げる1択じゃ。


「なっ待て! ドラゴニュート!!」


 誰が待つか。

 さて、後はケビン次第じゃな。

 中の様子が気になるがわしまで入るのは野暮ってもんじゃから……ってあれ? そういえばあの部屋に何かあったような気がするが……何じゃったかな?

 ふ~む……思い出せないのなら大した問題ではないって事じゃな、さっさと身を隠して木の実を食べるのが一番じゃ。




 ~グレイ・ガードナー~


「悪いの、わしは無益な争いは好まぬし用事があるのは小娘だけなのじゃ。じゃあの!」


 こいつ飛んで逃げる気だ!


「なっ待て! ドラゴニュート!!」


 くそ! あっという間に奥に飛んでいってしまった。

 あれじゃ追いつけない。


「いやーすごい速さで飛んでいったっスねー。あれがドラゴニュートなんスか、俺はじめて見たっスよ、感激!」


 いやいや、感激しとる場合か。

 つかこいつはこいつで喋るだけで剣すら抜いてないし、やる気あるのか?


「まぁいい。おい、町に戻る準備をするんだ」


 壁の前にはスケルトンが待機していて、コレットと一緒に壁の中に入って行ってしまった。

 恐らくあれがコレットの言ってたおかしなスケルトンだろうか?

 だがコレットには緊急時用のアイテムを渡してある、今頃はそれを使って町に戻ってるはず。


「え? コレットさんをほっといていいっスか?」


 まったく、何を言ってるんだこいつは。


「コレットにもお前にも緊急時用のアイテムを渡したがろうが、だから――」


「その一式が入ったコレットさんの袋がここに落ちてるっス、さっきの衝撃で落としたみたいっスね」


 あの袋は間違いなくコレットの奴だ。


「…………マジかよ!!」


 ――大問題じゃねぇか!

 まずいまずい、非常にまずい!


「っおい! 早くコレットを助けるぞ!」


 ……くそっ俺とした事が!

 だが、まだ飛ばされたのが直線でよかったかもしれん。

 もしテレポート系だったら見つからなかったぞ。


「えーと、確かこの辺りの壁が開いたっスよね。よいしょ! ふん! ……駄目っスね、押してもまったく動かない」


 ここに隠し扉、この遺跡にはどれだけ隠し扉や部屋があるんだ。

 そもそもそこまで必要か? ここを作った奴らは何がしたかったんだ。

 っと今はそんな事を考えてる場合じゃねぇ。


「おい、そこをどけ」


「うっス……ってグレイ先輩、何鎧を脱いでるんっスか!? あ、俺はそんな趣味ないっスよ!?」


 こんな非常時に何を言ってんだこいつ!?


「アホか! 俺もそんな趣味はねぇよ! 鎧が邪魔だから脱いだんだ」


 鎧を脱いだだけで、そんな発想が出て来るなんてどんな頭をしてるんだこいつは!?

 仕方がなかったとはいえ、こんな奴連れて来なければよかった。


「とにかく――フン!」


「おお、すごい筋肉」


 こんな壁如き、俺のタックルでぶち破ってやる。


「すーっ……どりゃあああああああああああああ!!」


 ――ドスン!!


「……音だけで壁に変化はないっスね」


 くそが! 今度こそ!


「どりゃあああああああああああああ!!」


 ――ドスン!!


「…………」


 何だ、この壁。

 硬すぎるだろ……。


「おい、お前も見てないで手伝え」


「ええ……まぁ、しょうがないっスね」


 中のコレットが心配だ、早くこの壁を――。


《ガアアアアアアアアアアアアアアアア!》


 は?


「……今の雄叫びは何だ?」


「何っスかねぇ……」


 雄叫びはこの壁の向こうから聞こえた。

 すごく嫌な予感がする、コレット無事でいてくれよ!



 ~ナシャータ~


《ガアアアアアアアアアアアアアアアア!》


「んぐ!? ゲホゲホッ! 何じゃ!?」


 びっくりして種まで飲んでしまったのじゃ。

 まったく、どの獣が吠えてるん……獣?

 ……あああああああああああ!!


「しまったのじゃ!! あの部屋には!」

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