第10話 ケビンの書~吉夢・2~

《ゼ~ハ~ゼ~ハ~……ふぅ……》


 コレットが座った、どうやら休憩するみたいだ。


《え~と……次はっと……こっちだったかな……》


 入り口からそんなに進んでいないのにもうへばってるみたいだが、大丈夫だろうか?


《よいしょっと!》


 お、出発するみたいだ。

 しかしあんな身の丈にあっていない重い鎧は脱いで、軽い物にすればいいのに何故そうしないのだろうか?


《きゃっ! ――うぎゃっ!》


 そしてまた転んだ、これで何度目だ。

 まぁそのコケる姿もかわいいんだが……しかし、それで傷ついて跡が残ってしまっては駄目だよな。

 鉄の鎧同様にあのアーメットも問題がありそうだ、どうも普通のより視界が悪そうな感じがする、外せばいいのに何故か外さない。鎧も含めての理由があるのだろうか?

 気にはなるが、かといって声をかけるのもな……出て行ったらあの手に持ってるこん棒で殴られるのがオチだし。


《う~……………………》


 なんか落ち込んでる。


《……ふんっ!》


 と思ってたらえらい力強いく立ち上がった。

 くそ! 愛しの女性が何回も倒れるのに手を出せない事がこんなに心苦しとは!

 どうにかできないか……声もかけずに彼女が転ばない方法はないものか。

 ……やっぱりこのナイフを、置いて……いやしかし、うーん!


《あっ》


 まずい、あの体勢でこけるともろに顔を打ち付けるぞ!


《うぎゃっ! ……いった~》


 あーやっぱり顔面からいったぞ。アーメットが防いだから顔に傷は付いていないだろうが、そのアーメットで頭をぶつけたようだ……。

 この遺跡の床も問題だよな。石は転がってるわ、出っ張ってた床があるわで、こける場所しかない。

 平たんだったらコレットも歩きやすいのに――。


『平たん……あ、そうだ!』


 手を出す事は出来なくても手を貸す事は出来るじゃないか!

 ではさっそく先回りして作業に移ろう。

 あの様子じゃすぐに来る事はないだろうし、時間に余裕はありそうだ。



《……? この辺りすごく歩きやすいけど何でだろう? ん~……まぁいいか》


 よしよし、快調に歩いてるな、作戦成功だ。

 予想通りコレットの歩くペースが遅かったおかげで十分に作業が出来た。

 躓きそうな石は通路の両端に寄せ、出っ張ってた床の部分は割ったり踏みつけて戻したりして通路を平たんにした、これならコレットも危険なく歩けるわけだ。

 我ながらいい働きをしたなー。


《あそこに柱があってこっちには曲がり角……うん、間違いない落とすとしたらここだ。――どこかな、う~ん……見当たらない》


 やっぱりナイフを探しに来たのか……しかしコレット、いくら探してもそこにあるわけないんだ。 

 だって探し物のナイフは俺の手に握られてるのだから……。


『……あれ? この状況って俺がコレットに対して嫌がらせをしてる様にしか見えないんじゃないか!?』


 通路を設備していないでやっぱりナイフを置いておくべきだったぁあああああ!!

 今からでも遅くはない、コレットの視界は悪いんだからそっと置いて――。


《あ~も~! このアーメットじゃ見えないよ!》


 え? あ……。


「ぷはっ。よし、これで見やすくなった!」


 うおおおおおおおおおおおお! アーメットを外してコレットの顔をまた見れた!! って喜んでる場合じゃない、あれじゃそっと置いていくなんて無理じゃないか!


「――う~ん、ないな~……どこいったんだろう。というかやっぱり昨日来た時ってこんなに床が平たんじゃなかったよね、明らかに手入れをした感じがするんだけど……」


 さすがに不振がって来た、だったらここはちゃんと説明をしつつゆっくりと姿を出して行くしか。


『あーコレッ――』


「モンスターがこんな事するわけないし、人がやったとしか考えられない――」


 まぁ俺がしたからな……今は人でもないけど。


『コレッ――』


「――だとしたら、きっとあの後から他の冒険者が来て持って行っちゃったんだ! も~!」


 地団駄を踏んでる、そんな姿もかわいい……。

 ――じゃなくて!


『コレッ――』


「はぁ……」


 かなり落ち込んでとぼとぼ歩き出した……。

 完全に出るタイミングがずれてしまったけど、まだ間に合うはやく返してあげない――。


『――と!? あの方向はまずい! コレット! 進むな、戻れ!!』


 ――カチッ


「ん? なにか足元で音がしたような……」


 くそっ間に合わなかった。

 あれは侵入者を壁で押し潰すトラップのスイッチ、このままだとコレットが押し潰されてしまう!!


「え? え!? 嘘でしょ!? 壁が!!」


 あのトラップは起動してしまうと途中で止めるのは不可能だ。

 こうなったらコレットを壁の外に押し出すしかない!

 全力を出し切れ俺の脚!!


『うおおおおおおおお! 間に合ええええ!!』


 とうっ! 渾身のタックル!!


「きゃっ!? ――あいたっ!」


 よし! コレットを壁の外に押し出せたぞ。

 痛かったろうがすまない、君を助ける為には仕方なかっ――。


『――たア!?』


 俺が挟まれしまった! くっ動けん! 思った以上に壁の圧が強い。

 この体だと簡単に潰されるのが目に見えてる、その前にナイフを返さないと。

 さぁ、受け取ってくれって……あれ……? ……視界が……急に真下に……落ちた……?

 ……そうか……俺の……頭が……落ちて……しまった……のか……だが……コレット……心配するな……俺は……再生できるから……。

 だから……早く……駄目だ……もう……意識……が……。

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