2章 二人の吉夢と悪夢

第9話 ケビンの書~吉夢・1~

 しかしコレットのあの一撃は見事なだったな、あの鎧で見えなかっただけで筋肉ムキムキだったのか?

 ……それはない、だったらあのクソ重そうな鎧であんなにふら付かないだろうし、剣も振れてゾンビを倒してたはずだ、恐らく渾身の一撃だったのだろう。

 でも、なんで俺がコレットにその渾身の一撃を食らわされてしまう羽目になったんだ?

 あのタイミングで助けに入って、華麗にゾンビを斬り(まぁその斬った奴はそこで元気に動き回ってるけど)、そして倒れてる彼女にかっこよく手を差しのべる。

 うん、自分でもほれぼれするほどの登場の仕方だよな。


『……アー……』


 じゃあ何か怒らせて殴られるような事しちゃったかな。

 例えばあのゾンビはコレットの獲物だった……とか?


『……アウー……』


 いや、それはないな。

 ゾンビにレア物なんて持ってないし、そもそも遺跡内で不死系モンスターの討伐の依頼なんてほぼない、あってもそれは墓地や廃村がある外での話だ。

 遺跡内の討伐がない理由、その理由がまさか自分で体験する羽目になるとは思いもしなかった……そう、遺跡内のモンスターは遺跡の外に出れない、出てこれないのだから緊急時以外は放置されてしまう。


『……ア……ウ……』


 だとしたら他に要因があるはず……うーむ。


『……アア……ア……』


『……………………』


『……アー……アー……』


 ええい! さっきから俺の周りをウロウロ動き回って、アアとうるさいゾンビだな!

 考えに集中出来な――。


『……アア…………ア?』


 ……………………あそこにはコレットとゾンビと俺、つまり……。


『……………………ああ!』


 殴られる要因なんてあるじゃないか!

 今の俺の姿自体がまさに要因!!


『……スケルトンの姿なんだから、コレットにこいつらゾンビの仲間だと思われて、ぶん殴られてしまったんだ。そんなの当たり前じゃないか……俺の馬鹿! 彼女を怖がらせるなんて……』


 本当に俺は大馬鹿だな、だから最初は助けるのをやめたのに……でも飛び出さずにはいられなかった、コレットの顔に傷が付いちゃうからな。

 …………コレットの件といい、この遺跡から外に出ようとしたり、自分がスケルトンの体なのについ生身があるように動いて失敗してばかりだ。

 はは……いや、生身があったとしても失敗しているか。意気揚々とここに来てトラップの落とし穴に落ちてこの有様になったんだからな。


『……ただ今日、目を覚ませばこんな姿になってしまったのだからしょうがない思うんだがな……』


 って俺は誰に向かって言い訳を言ってるんだ。

 駄目だ、色々考えるとどんどん泥沼にはまって自分でもわけがわからんようになってきた。


『はぁ……』


 出るのはため息ばかり。コレットに会いたい……でも怖がらせちゃったしもうここには来ないかもな。

 ん? 待てよ……そうだ、このナイフを取りにまたこの白の遺跡に来る可能性があるじゃないか?

 そうなればナイフを口実にお近づきに……あーでもこの姿じゃ結局同じ事が起きるだけじゃないか……どうしたもんか。



『……』


 結局何も思いつかずに何時でもコレットが来てもいいよう、遺跡の入り口にまで来てしまったが……。


『……どうやら今は夜か』


 入り口の外は真っ暗だ。

 さすがに今日はコレットは来ないだろうが念のためこの柱の影に隠れておくか。


『……明日来るといいな……』




 ◇◆アース歴200年 6月12日・朝◇◆


 遺跡の入り口から日の光が差してきた、どうやら朝になったようだな。

 この夜中を過ごしてスケルトンの体でわかった事また1つ目、それは一切眠くならない事だ。

 まぁスケルトンに睡眠が必要がないのはわかるが……気絶して意識を失ったのにまったく睡魔に襲われなかったのは何故だろう。


『うーん……』


 ……うん、これもまた考えてもこれは答えが出せないやつだ、考えるのは辞めよう。




 ◇◆アース歴200年 6月12日・昼◇◆


 そろそろ半日は立つのかな。

 うーん、コレットが来る気配もな――。


《入り口付近にモンスターの姿は……ないみたいね。――よし、ファイト私!》

 

 ん? 入り口から声がしたような……ああ! あのアーメットに鉄の鎧は間違いなくコレットだ!


『コレッ――』


 っといかんいかん、つい飛び出そうとしてしまった。

 この体について何も解決していないのにコレットの前に出てしまうとまた前のようにモンスターと勘違いされて、あのこん棒で殴られるのが目に見えてる。

 だが、このナイフは返した方がいいよな。先回りして置いておくか? いやそれだとコレットと仲良くなれる口実がなくなってしまうし、どうする? どうする!?


《え~と……確かこっちだったよね》


 ああ、考えてるうちにコレットが行ってしまう。


『とにかくこっそりと後をつけるか』


 しかし何故なんだろう、この姿云々は関係なくコレットにすごく近づきたいのにコレットにすごく近づきたくない……物凄く複雑な気分なんだが。

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