4‐4
日没を迎えた日曜日の渋谷はこれからが本領発揮とでも言うように、街の象徴でもあるスクランブル交差点は多くの人間が行き来していた。
道玄坂二丁目。例の五階建てビルに入った男は迷いなくエレベーターの地下一階のボタンを押した。ボタンに触れた彼の手は黒い革手袋で覆われている。
地下一階でエレベーターを降りた彼は足音もなく通路を横切り、不死鳥の名のつく真っ赤な扉を押し開けた。酒と煙草と香水が混ざる澱んだ空気は彼の大の好物だ。
営業前のクラブには誰もいない。そのまま店の奥を突き進み、地下二階に続く秘密の隠し扉を見つけた。壁をスライドさせて姿を現した幻の地下二階へのエレベーター。
彼はフッと息を漏らして笑い、フェニックスからマリアに通じるエレベーターに乗り込んだ。
『さぁて。獲物を狩るとしますか』
地下二階のピンクの絨毯を踏みしめて金色の扉の内側へ。
情報通り、獲物は地下二階にいた。大きなソファーの上で獲物は女にのしかかっている。ソファーの下には脱ぎ散らかした男物と女物の服。
女が吐息混じりに絶叫している。いい声で
彼はサイレンサーをつけた銃を獲物に向けた。
『お楽しみ中のところ悪いな。東堂孝広』
『……は?』
女の上に覆い被さっていたタカヒロが名を呼ばれて身体を起こした刹那、サイレンサー付きの拳銃から発射された弾がタカヒロの頭部を撃ち抜いた。
「……ひぃっ……!」
たった今までタカヒロと快楽の海に沈んでいた女が短い悲鳴をあげた。飛び散ったタカヒロの赤い血が女の白い肌を点々と染める。
彼は女にも銃口を向けた。女は絶命したタカヒロの身体を押し退け、自分が裸なのも忘れて、無我夢中で床を這う。
『どうした? さっきまでいい声で
「や……やめて…殺さないで……」
じりじりと、獣は逃げ惑う獲物を仕留めるのを愉しんでいる。
彼は追い詰めた獲物の上に馬乗りになり、タカヒロの血が飛び散った女の白い乳房を乱暴に揉みしだいた。丸い乳房が形を変えてグニャリと潰れる。
『なかなかイイ乳持ってるじゃねぇか。でも可哀想になぁ。今日ここに居なければ殺されずに済んだものを。俺がイかしてやりてぇが、残念ながら時間がない。せいぜい、あの世でイッてくれ』
何も感情のこもらないセリフを吐いて無情に引かれたトリガー。女は額から血を流して動かなくなった。
『70のDってとこか? もう少しあるか……。殺すには惜しい身体だったな』
乳房を掴んだ感覚から予測した女の胸のサイズに自分で満足して、彼は拳銃を懐に戻す。これで仕事は遂行した。
ビルを出た彼は暗くなった渋谷の雑踏に身を隠した。
彼の正体はあの地獄の番犬と同じ名を持つ犯罪組織カオスのhit man。
彼の名は……ケルベロス。
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