2‐2

 聖蘭学園を出た早河の車は四谷の探偵事務所を目指して走る。


『しかし学校にいる時も生徒とすれ違ったが、みんな髪は黒いし化粧はしてないし至って普通の生徒だよな。とてもじゃないが裏に売春組織が存在しているとは思えない』

「みんな普通の女の子なんですよ。メイクは禁止されていましたけど、学校の帰りに遊びに行く時はちょっとメイクしたり。それが女子高生ってものです。MARIAにいる女の子達もきっと普通の子です。ただ少しだけ周りとズレてしまっただけだと思います」

『そうだな。高校生ってのは大人と子供の狭間だ。早熟な子は周りとズレてしまう時もある。今の有紗もそんな感じなんだろうな』


 冬の午後の街並みはどこかのんびりとしている。信号待ちになるとランドセルを背負った小学生の列が行儀よく横断歩道を渡っていた。


「有紗ちゃんも冷めてますよね。何かを諦めているような……大人が嫌いだと言っていましたね」

『大人が嫌い、か。俺だって大人を好きと思ったことはないな』


信号が青になり、車が動き出した時に早河の携帯が鳴った。彼は携帯画面に表示された名前を確認して携帯をなぎさに渡す。


『上野さんだ。悪い、出てくれ』

「はい。……もしもし、香道です」

{ああ、なぎさちゃん? 早河は?}


通話相手は早河の元上司の警視庁捜査一課の上野恭一郎警部。


「所長は今運転中で……あ、待ってください。代わりますね」


 路肩に寄せて車が停車する。なぎさは通話状態にした携帯を早河に渡した。


『すみません。早河です』

{運転中に悪いな。お前、高山有紗って子の家出捜索を引き受けたんだろ?}

『ええ。でもどうして上野さんがそれを?』


上野は元上司ではあるがそれは警察時代のこと。探偵となった早河の仕事内容を把握してはいない。


{聖蘭学園の生徒の連続殺人事件は知ってるよな?}

『もちろん。まさか有紗があの事件に関係していると?』

{それはまだわからないが殺された生徒三人は聖蘭学園の生徒であり、聖蘭学園の生徒で組織された売春組織MARIAに所属していた。MARIAのことは知ってるのか?}

『有紗を捜してる時に渋谷北署の酒井さんに聞きました。有紗がねぐらにしていたネットカフェのあるビルがMARIAのアジトだったので。渋谷北署が昨日ガサ入れしていましたよね』

{ああ。渋谷北署がMARIAのメンバー名簿を手に入れてな。名簿に高山有紗の名前はなかったよ}


 有紗の名前がMARIAの名簿にないと知り早河は安堵する。本人はMARIAのメンバーではないと言っていたが半信半疑ではあった。

これで有紗も実はMARIAに所属していたとなれば父親の高山政行に報告するのも気が重い。


{これはマスコミには伏せている情報だが……被害者三人の手には金平糖が握らされていたんだ}

『金平糖……お菓子のアレですか?』

{そうだ。第一の被害者がひとつ、第二の被害者が二つ、第三の被害者が三つ}


スピーカー設定にした通話から漏れる上野の話を聞いてなぎさも怪訝な顔をしていた。


『殺人が増えるたびに金平糖がひとつずつ増えているんですね』

{金平糖が犯人からのメッセージであることは間違いない。今朝からMARIAのメンバーの事情聴取をしているが、彼女達に金平糖について思い当たることがないか聞いたんだ。数人のメンバーが金平糖と言えば高山有紗だと答えた}

『金平糖が有紗?』

{高山有紗はいつも金平糖を持ち歩いているらしい}

『……そうか、あれは金平糖だったな……。確かに有紗が金平糖を持ち歩いているのを俺も見ました』


 今朝ビルの前で有紗と話している最中、彼女はコートのポケットから何かを取り出して口に入れていた。飴かと思ったが、アレは飴ではなく金平糖だった。


{高山有紗と一連の事件に繋がりがあるかは今はなんとも言えない。しかし彼女もあのビルに出入りしていた。高山有紗にも話を聞こうとしたんだが、学校には登校していない。父親に連絡を取ると娘は早河と言う探偵に預かってもらっていると来た。それでお前に連絡したんだ}

『なるほど。わかりました。有紗はなぎさの家に居ます。警視庁まで連れて行きましょうか?』

{いや、今から俺がお前の事務所に行くよ。高山有紗を事務所に連れて来てくれ。警察に出向くよりもそちらの方が彼女も警戒しないだろう}

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