2‐13
私を見た木村先輩が身を屈めて苦笑した。
『派手にやられたなぁ』
「はい……派手にやられちゃいました」
私も苦笑いするしかない。漫画みたいに見事に頭から水をかけられてバケツをぶつけられそうになって情けなくて恥ずかしい。
『怪我は?』
「えっと……大丈夫です」
『怪我がないならよかった。とりあえずこれで顔拭け』
木村先輩が自分のハンカチを差し出したけど、先輩のハンカチを使うなんて恐れ多い!
「いえ! ハンカチなら私持ってますか……ら……あ……」
体操着のポケットから取り出したハンカチはびしょ濡れだった。それはそうだ。全身に水を被ったのだ。ハンカチも濡れていて当然。
びしょ濡れのハンカチを見た木村先輩が吹き出して笑った。
『ほら。いいからこれ使え』
「すいません……」
再び恥ずかしくなって顔が熱い。木村先輩のハンカチを使って濡れた顔を拭った。
ハンカチから先輩の香りがする……ってうっとりしちゃった私は変態かもしれない。
木村先輩は携帯を耳に当てて誰かと話をしている。
『今どこ? ……あー……じゃあ保健室でタオル何枚か借りて中庭まで持ってきて。できればバスタオルで。……理由は来ればわかる。あと先生にシャワー室使えるよう頼んでくれ。緊急事態だから。おう、任せた。……すぐに悠真がタオル持って来るからちょっと待っててな』
優しく笑いかけてくれる木村先輩にキュンとする。かっこよすぎです先輩っ!
「先輩はどうしてここに?」
『さっきの女達をつけてきた』
「つけてきたって……」
木村先輩は花壇のレンガブロックに腰かけた。地面に投げ出された先輩の脚が長いなぁと、つい
『あの賭け事件のグループの中で停学処分の軽い奴らは今日から登校してきてるんだ。生徒会で要注意人物と判断した奴は生徒会と風紀委員がしばらく監視しようってことになってさ。で、俺があの三人組を見張ってたらバケツに水入れだして増田さんの悪口言ってるしこれは嫌な予感しかしねぇからつけてきた。予感的中でアイツら増田さんに水ぶっかけて言いたい放題』
ずぶ濡れの私を見た先輩は申し訳なさそうに形の整った眉を下げた。
『本当は水ぶっかけられる前に俺が出ていこうかと思ったんだけど……でもアイツらに言い返せたな』
「はい。先輩が自分を守れるのは自分だけって言ってくれたから……勇気が出て……」
『よく頑張ったな』
涙が零れるのは木村先輩の優しさが身に沁みるから。
木村先輩がモテる理由がわかる。先輩はただ顔がいいからモテるんじゃない。
木村先輩はとっても温かくて優しくて人の心を思いやる人。
だからこの人の周りには自然と人が集まってくるんだ。
それからしばらく木村先輩と話をしているとタオルを持った高園先輩がこちらに走ってくる姿が見えた。
『隼人っ』
『悠真、遅い』
『人に物持って来させて遅いはないだろ。増田さん大丈夫?』
高園先輩が私の身体にバスタオルをかけてくれた。
「高園先輩ありがとうございます」
『いえいえ。しかしこれは想像以上に酷いな。早く着替えた方がいいね』
『シャワー室は?』
『先生の了解はとった』
『さっすが生徒会長』
『こういう時に会長の権限使わないとな』
ハイタッチする木村先輩と高園先輩が眩しい。二人ともキラキラ輝いて見えます!
『増田さんの荷物これ?』
高園先輩が花壇の傍らに置かれた私のカバンを持ち上げた。
「あ、はいっ。いやいや自分で持ちますよ!」
『カバンまで濡れるよ? これくらい任せなさい』
私のカバンを肩にかけた高園先輩からカバンを受け取ろうとするも呆気なく制止される。木村先輩が頭から私を大きなバスタオルでくるんだ。
『今からシャワー室行くけど、シャワー室入るまでタオルかぶってこうしてろよ』
「え?」
『下着透けてるから。シャワー室行くまでの間に他の奴らに見られたくないだろ?』
木村先輩が私の胸元までタオルを引き寄せた。
……うわわわわ! 濡れた体操着から下着が透けてることに気づかなかった。ということは木村先輩と高園先輩には透けてしまった下着を見られてしまった。
こんなことならもっと可愛い下着にすればよかった(そういう問題ではない)
『シャワー浴びてる間に下着も乾かしておけよー。シャワー室に乾燥機もあるからそれ使いな』
「はい……」
真っ赤な顔をする私の腕を木村先輩が引いていく。高園先輩には荷物を持ってもらって、たまにすれ違う男子生徒や女子生徒が私達を異様な目で見ていく。私はどんな風に思われてもいいけど先輩達が変な目で見られてないか、それだけが心配だ。
運動部のみが使用を許されているシャワー室を高園先輩が先生に許可をもらって特別に私が使えることになった。テスト勉強の期間で原則として運動部の活動は休み。
高園先輩が女子専用シャワー室の鍵を開けて私だけを中に入れる。
脱衣場の乾燥機に下着と体操着を入れてシャワー室へ。ぬるめに設定したシャワーを浴びて制服に着替えた。下着も乾燥機で乾かしたから気持ち悪さもない。
シャワー室から出ると驚いたことに木村先輩と高園先輩が待っていた。
「先輩達……待っていてくれたんですか?」
先輩達はシャワー室の前の階段に腰掛けていた。
『覗き野郎がいないか見張ってた』
『覗き野郎は隼人だろ?』
『俺は無断では覗かねぇよ』
『覗いていいって言ったら?』
『そんなもの遠慮なく覗くに決まってる』
……この人達ってクールに見えて面白いよね。
『じゃあ増田さん。最後の戦いに行こうか』
木村先輩が立ち上がる。先輩の手には何故か携帯電話が握られていた。
「最後の戦い?」
『増田さんの戦いはまだ終わっていない。どちらかと言うとここからが本番だ』
不穏な言葉を呟く木村先輩が私の頭に手を置いた。先輩の表情は真剣そのもので私はゴクリと唾を飲み込む。
『大丈夫。今の増田さんなら戦えるから』
木村先輩の言葉の意味がわからない。これから何が起きようとしているの?
木村先輩と高園先輩に促されて校舎に入り階段を上がった。
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