2‐5
『で、何があったの?』
緒方先輩が落ちていた私のリボンを拾い上げた。先輩が土をはらって渡してくれたリボンを襟元に身につける。
「ありがとうございます……。私にもよくわからなくて……」
女の子達から解放されてホッとしたのか涙が出てきた。視界が滲んで先輩達の顔がよく見えない。
『あーあ。
『えっ! 犯人俺? なんかNGワード言っちゃった? やべー、どうしよう……ごめんね?』
頭上で木村先輩と緒方先輩の声が聞こえる。二人とも温かくて優しさのある声。
「……違うんです。緒方先輩は何も悪くないです」
涙が止まらず顔を伏せたまま先輩達の誤解を訂正する。また足音が近付いて隣で止まった。
『とりあえず生徒会としてはさっきのこと詳しく事情を聞きたいな。生徒会室に行こうか』
高園先輩が優しく肩を叩いてくれて、泣きながら頷いた。
『でも悠真、今から生徒会室ってもう学校閉まる時間だろ。大丈夫なのか?』
『それなら隼人がなんとかしてくれる。なぁ隼人?』
『はぁー。また俺かよ』
『よろしくー』
「……あの……木村先輩がなんとかしてくれるって言うのは?」
先輩達の話の流れがわからず、恐る恐る高園先輩に話しかけた。高園先輩は『ん?』って表情をした後に爽やかスマイルを私に向けてくれる。
『隼人が事務のお姉さんに学校閉めるのを待ってもらうように交渉するんだよ。隼人に任せておけば大丈夫』
「はぁ……」
高園先輩の爽やかスマイルにどきまぎしたまま、先輩達の後ろをついていく。本校舎の事務室の前で私達を残して木村先輩だけが事務室に入った。待つこと数分。
木村先輩が鍵を手にして事務室から出てきた。
『正門は閉めるから俺達が出る時に裏門の鍵閉めて、鍵は学校の郵便受けに入れておけばOKだってさ』
『おおっ隼人すげー! 何て言って事務のお姉さん口説いた?』
『キスしただけ』
木村先輩が平然と答える。私と緒方先輩は唖然としていた。
『ひかりさんは隼人の彼女だから当然だよな』
高園先輩は最初からこの結果が目に見えていたようで木村先輩と同じく平然としていた。高園先輩って何かに動じることがあるんだろうか……お化け屋敷や絶叫系のアトラクションも涼しい顔して乗っていそう。
ひかりさんって事務のお姉さんの名前?
『お前ー! いつの間に事務のお姉さんまで落としたんだよ……俺は聞いてねぇーぞー!』
『アホ。なんで晴に言わなきゃならねぇんだよ』
『はいはい、時間ねぇから行くぞ』
高園先輩が木村先輩と緒方先輩のやりとりを中断させ、裏門の鍵を手に入れた私達は再び旧校舎に引き返した。
事務のお姉さんには私も何度か手続きのことでお世話になったことがある。二十代の綺麗な人だった。あのお姉さん、ひかりさんって名前だったのかぁ。
でもやっぱり木村先輩がキスしたことを本人の口から聞くとリアリティーがあって複雑な気持ち。
ふざけながら廊下を歩く木村先輩と緒方先輩を呆れた顔で傍観する高園先輩、私はそんな先輩達の一歩後ろを歩く。
木村先輩、4月の時は黒髪だったのに今はダークブラウンになっている。ちょっと赤みがかってる気がする。高園先輩も暗めのトーンのサラサラな茶髪。
髪を染めるのは校則違反だから生徒会長と副会長が堂々と校則違反するのはどうかと思う。きっとこの二人だから許されているのかもしれない。
私の涙はとっくに乾いていたけど泣き顔を先輩達に見られた恥ずかしさで顔を上げられない。特に木村先輩にはぶっさいくな泣き顔を見られちゃったショックでまともに先輩の顔を見れない。
木村先輩は私が一年前に告白したことに気付いているのかな? たぶん気付いていないよね。
先輩に告白する子はたくさんいる。振った子の顔なんて覚えてないだろう。気付かれない方がありがたい。
ただでさえ恐喝されている現場と泣き顔を見られてショックなのに、木村先輩に告白した女だと知られたら余計に気まずいもん。
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