原液②
実際はぎゃあぎゃあ騒いだり、わあわあ泣いたり、
子供特有のあれこれに明け暮れていた、というだけのことなのに
悲しいことも嫌なことも色々あったのに、なんで。
なんできらきらしているんだろう、幸せだったと思うんだろう。
『遊ぶ』という言葉の意味がそのまま『遊ぶ』と捉えて良かった頃。
公園に集合して、走って、遊具に登って、みんなで買った10円グミを分け合いっこしていた頃。
あの頃特有の特権だったなんて、ちっとも気付きはしなかったけれど。
きっと本当に戻れたら思い出す。
あの頃の痛みを思い出すだろう。自分の不器用さがもどかしいだろう。
学校でのこと。クラスのこと。先生のこと。チャーちゃんとクーちゃんとノビントス。
ハルナマンとか。文太とか。かなちゃんとわみゆ。いくとあみゆとまゆと、
それから木曜日のピアノ。月曜日の頭痛。頭痛のお茶会やドッヂボール。
治らなかったお漏らし。返せなかった本。死なせたカタツムリ。お母さん。
お母さんに良い子だって言われたくって、言われたらぜんぶが嬉しかった。
日常の中に幸と不幸が混じっているのは今でもそうだけれど、あの頃の経験は原液みたいにすべてが濃くて、
あのときわたしは激しく不幸で、激しく幸福だった。
失ったものと卒業したもの。
手に入れたものと手にした煩雑さ。
卒業式の帰り、夢中で走った。
小学生を失いたくないと、新品のセーラー服を着て、無意味に。
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